風邪の話、2

2008年12月

助手:この暑い時期に風邪の話ですか?
博士:確かに暑くなってきたが、夏風邪というのもある。どこぞの医務官も夏の風邪で酷い目にあったそうじゃからな。それに、このサイトの読者はタンザニアの方だけではない。北半球ではこれからが冬本番じゃ。
助手:”風邪の話” は過去にもありましたね。何か新しい情報がありますか?
博士:うむ。懐かしいな。1998年4月だから、既に10年前じゃが、内容的にそれほど間違ってはいない。
助手:この10年それほど変わっていないということは、あまり進歩していない、ということになるんでしょうかね。
博士:うむ。大きく違ったのは、インフルエンザ用抗ウイルス剤が開発され、10年前記載のアマンタジンに加え、オセルタミビルやザナミビル製剤が一般に利用できるようになった点じゃな。ウイルスについての研究は随分進んだ。
助手:薬というのはタミフルなどのことですか?
博士:

そうじゃ。タミフルとリレンザじゃ。

助手:タミフルやよく聞きますが、副作用で子供が2階から飛び降りたとか、電車に飛び込んだとかが話題になりましたよね。
博士:

日本のみの報道じゃが、異常行動を起こした事例が続いたため、10代への投与が見合わされている。しかし、大規模な調査の結果、タミフル服用との因果関係は否定された。インフルエンザそのものによる脳症の症状の方が多いと結論づけられている。

助手:

それじゃ、風邪をひいたら安心してタミフルを飲んで良いということですね。

博士:君のその文章には、重大な間違いがあるな。わかるか?
助手:え? 何ですか。タミフルによる副作用は否定されてのではないですか?
博士:第一の間違いは、風邪とインフルエンザを混同していることじゃ。風邪というのは、前にも話したが、急性の上気道の炎症の総称、すなわち喉、鼻、気管支、肺に起こるすべての急性の炎症を指している。
助手:そうでした。その内、原因がインフルエンザ・ウィルスによるものがインフルエンザ、でしたね。
博士:そうじゃ。風邪の原因はその大半がウイルスじゃが、その種類は200種類以上とも言われている。インフルエンザウイルスはその中の3つ(A,B,C)にしか過ぎない。インフルエンザ・ウイルスによる症状以外にはタミフルなどの抗ウイルス剤は効果がない。
助手:わかりました。
博士:第二の間違いは、安心してタミフルを飲んで良いという点じゃ。
助手:でも、電車に飛び込んだりすることはない、って言ってましたよね。
博士:どんな薬にも副作用は必ずある。安易に自己判断で飲むような薬ではない。医師の診断のもと、内服する場合でも、特に子供の場合は十分な監視が必要じゃ。加えて、新型インフルエンザ出現の問題もある。
助手:新型インフルエンザですか。 過去に ”鳥インフルエンザの話” としてお話していただけましたが、何か関係がありますか?
博士:10年前に風邪の話をした時にインフルエンザの薬として名前を出したアマンタジン、覚えていると思うが、今ではあまり使われていない。どうしてかわかるか?
助手:名前の語感が悪いから、ですか? アマンタですからね・・・
博士:うーん。10年たっても、君は進歩しておらんな。アマンタジンが使われなくなったのは、薬剤耐性が出現したからじゃ。
助手:

耐性って。あ、思い出しました。使いすぎて、アマンタジンが効かなくなったんですね。

博士:
そうじゃ。そして新型インフルエンザの出現時に今一番期待されているのはタミフルなんじゃ。それが、いざという時になって耐性のために使用できないとなると、大きな武器を失うことになってしまう。
助手:
タミフルを使い過ぎるとよくない、というのはわかりましたが、他に武器は無いんですか?
博士:
抗インフルエンザ薬としてはリレンザがあるが小児には使いづらい。新薬も開発されているが流通するまではまだまだ時間がかかる。ワクチンが一番効果が期待されるが、これも新型が発生してからしか作れないので流行の第一波には間に合わない。プレパンデミックワクチンといって今流行しているH5N1型から作られているものもあり、試験投与が始まっているが、これも実際に効果があるか不明じゃ。
助手:
えーー、それじゃ。タミフル以外には武器なしですか?
博士:
そうでもない。新型といってもインフルエンザに変わりはない。昔からの知恵が強力な武器になる。
助手:
昔からの知恵って、うがい、手洗い、マスクなどですか?
 
博士:
そうじゃ。接触感染、飛沫感染には、こうした方法は十分に効果がある。さらに流行時は人混みに出ない、学校は閉鎖といった処置が有効であると考えられている。上のポスターは米国のものじゃが、日本では当たり前のエチケットといえる。
助手:
そうなんですか。少し安心しました。毎年のインフルエンザワクチンは効果がありますか?
博士:
新型そのものには期待できないかもしれんが、通常の季節性インフルエンザの重傷化を防ぐ効果は確かだし、新型が流行した時に、重複感染を防ぐ意味合いは大きい。
助手:
わかりました。年末に帰国する予定ですので、ワクチンを受けておくことにします。まあ、それにしても風邪って、そんなに種類があるとは知りませんでした。
博士:歌にもうたわれているじゃないか。♪千種類の風邪になって♪とな。
助手:
おっ。それって、♪千の風になって♪ですよ。やー、参りました。博士は進歩しましたね、落ちの歌が新しくなりました。ちょっと古いですが。
博士:
うむ、せいぜい風邪で死んだりせんようにな。君の墓参りには行かんからな。
助手:
えっ? どうしてですか? 博士、冷たいですね。
博士:
♪私のお墓の前で泣かないでください。そこに私はいません♪って、歌われておるじゃないか。
助手:
お見それしました。

 














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