鳥インフルエンザの話

2004年3月

助手:博士、鳥インフルエンザの流行が止まりませんね。
博士:うむ。既に死亡者はベトナムとタイで20名を超え、感染者数は世界保健機構(WHO)の集計では30名そこそこじゃが、米疾病対策センター(CDC)の調査では100名以上としている。
助手:人の感染が100名以上ですか。そうなるといよいよ昨年のSARS並になってきたんでしょうか?
博士:昨年度、SARSは8000人の感染者、死亡者は750人だったので、まだSARSには及ばない。また、今のところ鳥インフルエンザに関してはヒトからヒトへの感染は確認されていないのでSARS程の脅威ではない。
助手:でも、遺伝子が変身して人インフルエンザになると世界中で何千万人が死ぬという話ですね。
博士:ヒーロー物ではないんじゃから変身ではない。変異じゃ。厳密にいうと鳥インフルエンザウイルスのRNAと人インフルエンザウイルスのRNAとが再集合を起し、ヒトに感染しやすい、しかも高病原性のウイルスに変化した場合には、過去に大流行したように世界中を席巻する恐れはある。実際1918年のスペイン風邪では数千万人が死亡した。
助手:

鳥インフルエンザは鶏だけですか? 他の鳥もかかりますか?

博士:

元々カモ等の水鳥のウイルスだった。それが鳥類全般に広がった。鳥以外では豚もかかる。豚は人インフルエンザにもかかる。従って、鶏と豚を近い場所で飼育している場合に、遺伝子の再集合、変異が起こりやすいと言われている。

助手:

豚小屋と鶏の厩舎が並んでいる図は、イスラム圏以外の東南アジア全体で普通に見られる光景ですよね。

博士:

さらに、先日のタイの報告では、生の鶏を餌にしていた猫と虎も鳥インフルエンザで死亡したというニュースが流れている。

助手:

怖いですね。タイでは、スーパーやレストランから鶏が消えているそうですね。

博士:

うむ。タイ、ベトナム、中国、インドネシアなど感染発生国では既に合計8千万羽の鶏が処分されており、その経済的打撃は計り知れない。

助手:

8千万羽ですか。ほんと鶏に生まれなくてよかった。

博士:

そう言えば君は酉年だったな。

助手:

鶏憎しで、酉年まで排除しようっていうんですか? 私は酉年じゃありませんよ。

博士:

まあ、冗談じゃが、日本ではそれだけパニックが広がっておるようじゃな。大分県のチャボの感染にショックを受けて、ペットの鳥を野山に放す飼い主が出ているようじゃ。

助手:

気持ちはわかりますけどね。

博士:

清潔な状態で飼育し、野鳥が来ないようにして、鳥の糞に触れた場合には手洗いとうがいをよくすれば感染の心配ない、と日本獣医師会は提言している。また、実際ベトナムやタイのケースを見てみると、感染した人の多くは鳥との濃厚な接触、例えば大事にしていた闘鶏とベッドをともにしていたための感染などじゃ。

助手:

まあ、私にはそういう趣味はないので安心ですが、未だにINAマーケットでは、生きた鶏が籠に入って、一部は籠の上に置かれて売られていますよね。

博士:

そうじゃな。生きた鶏のいるマーケットはデリー市内だけでも4カ所ある。INA、シーランプル、ゴールマーケット、ガジプールマーケットじゃ。新聞でも相当騒がれており、一部の市民は既に鶏の買い控えを始めたようじゃが、当初は鳥の輸出市場が広がり、チャンスだという認識もあった。

助手:

パキスタンで発生している状況で、本当にインドには広がっていないでしょうか・・・ねえ?

博士:

パキスタンで発生しているのは弱毒性のH7とされており、死者を出しているベトナムやタイのH5N1とは違うとされている。

助手:

そもそも、インドでそのH5だとかHBだとかの検査が出来るんでしょうか?

博士:

鉛筆じゃないんだからHBはない。インドでは唯一ボパールにある動物疾病研究所で検査が可能らしい。そこでは連日インド各地、先日報道されたアッサム州を含め、各地から死んだ鳥のサンプルが送られており、検査を行っている。

助手:

それで、今のところインドに流行はない、という事なんですね。

博士:

そうじゃ。この原稿が作られている2月末現在の時点ではな。しかし、一般的な衛生上の注意は行っておいた方が無難じゃ。

助手:

手洗いとか、うがいとかでしょうか?

博士:

そうじゃ。そもそも鳥等のペットから人にうつる病気は少なくない。ウイルス以外でもオウム病や猫ひっかき病など細菌感染症も多い。鳥インフルエンザは体液や舞い上がって浮遊している糞からうつるから、生きた鳥のいるマーケットには近づかない。やむを得ず出かける場合にはマスクをする。ペットを飼う場合にはキスはしない。触った後は必ず石けんで手をよく洗うといった注意が必要だ。そしてよく火を通していない鳥・卵料理は食べない方が良い。

助手:

インフルエンザウイルスは熱に弱いんですよね。

博士:

そうじゃ。75度1分の加熱で死亡する。従って火を通したものであれば食べてうつる事は絶対にない。

助手:

鳥インフルエンザになるとどんな症状が出るんでしょうか? 首を前後にふりながら咳が出るとか。

博士:

鶏の物まねじゃないんだから。通常のインフルエンザと同じじゃ。高熱、咽頭痛、全身倦怠、咳、痰、頭痛、筋肉痛、呼吸困難などじゃ。

助手:

薬は効きますか?

博士:

発病48時間以内であれば、抗インフルエンザ薬タミフルが効果があるとされている。

助手:

それにしても、牛も狂牛病でダメ、この上鶏もダメとなるとほんと食べる物がなくなりますね。

博士:

狂牛病も日本のように全頭検査を行ったものであれば大丈夫だし、鶏も食べる分には心配ないぞ。しかし最近鶏の買い控えのために、魚やマトンの価格が上昇しておる

助手:

鳥の値段がどんどん下がっているんですね。

博士:

うむ。酉年の君の商品価値がどんどん落ちているのと一緒だな。

助手:

違うと言ってるじゃないですか。私は鶏と同等の扱いなんですね。確かに、どんどん結婚相手がみつかりにくくなっています。とほほ・・。博士が言ったように、ベトナムにでも手伝いに行ってアオザイ女性でも見つけた方が良いかもしれませんね。

博士:

まあ、そうあわてるな。インドでもう少し頑張れば新しい出会いがあるかもしれん。

助手:

出会いって、サリーをまとった美人でしょうか?

博士:

美人かどうかは意見の分かれるところじゃが、HとNの突起をまとったまん丸の顔を持つエビアン・フルという名前の・・・

助手:

ちょっと待って下さい。それって電子顕微鏡で見たインフルエンザウイルスそのものの形じゃないですか。

博士:

嫌いか? 少し頑張ればインドで会えるかもしれんぞ? 一緒に鳥インフルエンザと戦おう。

助手:

いやです。もう博士の下から離れることにします。実は私、サル年ですから。

 

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