患者力の話

2009年 12月

助手:患者力って、患者さんになる力、という意味ですか?
博士:そうではない。自ら努力して患者になる必要はない。患者力とは「あふれる医療情報の中から最適な意見を見極め、的確な医療機関を探し、患者から医師に働きかけて積極的に医療へ参加する力」と定義できる。
助手:どんどん医療機関を受診して、医者に文句を言いましょう、ということで すか?
博士:まったくわかっとらんな。それはコンビニ受診であり、モンスター・ペイシャントじゃ。
助手:コンビニ受診って、いつでもどこでも手軽に、という意味では良いように思いますが、問題ありますか?
博士:日本は流通がIT化されており、コンビニ店では、顧客の購買情報がオンラインで本店に入り、直ぐに売れ筋の商品が増産、配送されてくるシステムになっている。コンビニは従業員を交代制で雇うことにより24時間の営業が可能となっており、いつでも開いており、商品も枯渇することはない。 しかし、医療はコンビニ店にはなれない。
助手:そうですね。24時間開けておくほどの医者やスタッフの数はないでしょうし、薬なども、直ぐに提供されることはないかもしれません ね。
博士:日本の医師数は、先進国の中では最低レベルにある。看護師や技師さんの数も足りていない。今、多くの患者が求めて殺到しているインフルエンザワクチンも、供給が間に合わない状況じゃ。そんな中、コンビニ店に行くような気軽さで受診されたんでは、医療機関は持たない。
助手:でも、ニュースを見ると、新型インフルエンザで子供が亡くなったと毎日のように報道されていますから、親御さんにしてみれば、ちょっとでも症状があれば心配になりますよね。
博士:

報道の仕方に問題がある。確かに感染者数は多い(約1000万人)が、死亡率(11月26日時点で70人が死亡)は特に日本は低いんじゃ。14万人に1人程度の死亡率というのは、交通事故による死亡率よりも低い。そうしたことを、患者自身が冷静に把握する力、まさに患者力、が求められている。

助手:マスコミは売れること、 注目されることが大事ですから、煽る報道が多いのかもしれませんね。
博士:

今は核家族化していることもあり、子供の症状が、直ぐに医療機関を受診すべきものなのか、翌朝まで待っても良いのかを見きわめる力が、親御さんにもなくなっている。昔なら、家の中に高齢者がいたり、大勢の兄弟姉妹がいたり、と経験者に聞くことができた。

助手:

なるほど。家族の中での、"おばあちゃんの智恵"、が失われているわけですね。

博士:医療機関側からすれば、 こんな程度の症状で、夜中にわざわざ起こされたのか、と感じざるを得ないことも多いようじゃ。朝まで待てなかったのか、週明けまで様子を見ても良かったのではないか等々。
助手:わかりますけど、失われてしまった"おばあちゃんの智恵"に代わる物はありますか?
博士:わからない時は、両親でも良いし、誰かに相談することが重要じゃ。もしいない場合には、ネットを利用する手もある。一般的な小児疾患の対応としては小児科学会が作成した「子供の救急」ホームページ※がある。他に「兵庫県立柏原病院の小児科を守る会」作成の受診目安チャート図※もある。これらをまず利用して、受診が必要か判断しても良い。
助手:このホームページは便利ですね。冷静に判断するための情報収集力が患者の側に求められているということですね。他には、どんな力が必要ですか?
博士:医療者を支える力、育てる力も患者側に求められている。
助手:医者は収入も多そうですし、特に支える必要は無いように思えますが。
博士:収入だけで解決される問題ではない。とある調査によれば、医師の半数近くは、心因性の神経症や"うつ"に悩んでおり、メンタルヘルスケアを必要としているとの報告もある。
助手:そんなに悲惨な状況になっているのですか? 知りませんでした。
博士:今の若い医師は、患者さんから感謝された経験がなく、むしろ悪口や脅迫まがいの言動、まさにモンスター・ペイシェントのために、萎縮している状況となっている。こんな状況では、地域に医者、小児科医や産婦人科医がいなくなることは火を見るより明らかじゃ。某地方自治体で年収2500万円で産婦人科医を募集したそうだが、それでもなり手がいなかったと聞いている。
助手:たくさんのお金をもらっても、やってられない、ということなんですね。どうしたら良いのでしょうか?
博士:まず、こうした医療機関側の実態について患者側が知ることが必要じゃ。そして、地域において、患者自身が困ることにならないように、医療機関、医師、医療提供者を育てていく必要がある。それには、まず、感謝の気持ちを素直に伝えることじゃ。
助手:感謝ね。感謝はしているんですが、中々言葉で伝えたことはないかもしれません。文句を言ったことはありますが。
博士:もちろん医療者にもミス、間違いはある。大きなミスを起こして病院長が頭を下げているのはよく報道されている。しかし、ほとんどのケースでは、病気はよくなっているはずであり、それについてのお礼の言葉はめったに聞かないとのことじゃ
助手:

わかりました。次回から、「ありがとうございます」、と言うようにします。

博士:
昔であれば、当たり前の礼儀が失われているのかもしれん。さらに、患者自身が医療提供側の実態を知っていくことによりシステムの問題点や矛盾が明らかになれば、患者が中心となった医療行政の改善につなげていくことが可能となる。
助手:
こういった動きは、日本各地で起きているんでしょうか。
博士:
うむ。特に「関西オカンの会、、、時々オトン」や「兵庫県立柏原病院小児科を守る会」※などの団体が活発に活動を行なっている。患者力をテーマにしたシンポジウムを11月14日に行なったところじゃ。
助手:
兵庫県の会、「関西オカン、、、時々オトン」、ですか。関西のおばちゃんの発言力は強そうですね。男性はほとんど不要、っていう感じでしょうか。
博士:
まあ、関西に限らず、家族の健康を守るのは、母親の仕事、という認識が日本では強いのかもしれん。ニューヨークで邦人のための医療支援活動を始めたジャムズネット※もメンバーの多くは女性じゃな。我々男性の立場は小さい。
助手:
そうですね。でも、博士には別の力があるじゃないですか?
博士:
何じゃ? 思考力か? 洞察力か?
助手:
いえいえ。「老人力」ですよ。
博士:!?。ああ、1998年に流行語大賞にもなった赤瀬川原平著の本のタイトルじゃな。確かに最近物忘れが酷くなっておるの で、忘却力という意味で老人力はついたかもしれん。それじゃあ、若い君にはどんな力があるんじゃ? 体力か?
助手:
そうですね、私の場合、体力には自身あるのですが、その前に、借金もあるので何とか経済力をつけたいと思っているんです。
博士:
経済力ね。君の場合、まずは仕事の理解力、遂行力じゃろう。仕事ができんと、給料は上げてもらえんし、借金も返せん。嫁さんもみつからんぞ。
助手:
とほほ、その通りですね。私の場合は、「関西オカン、、、時々オトン」というよりも、「(借金)完済アカ ン、時々というかごくまれにオネエチャン」、ていう感じですかね。
博士:
なーーんじゃ、それは。今年もそうやって、寂しいクリスマスを送っていなさい。
助手:
そう言えば、もう少しでクリスマスなんですね。すっかり忘れていました。ほんと、日本にいなくて良かったです。毎日暑いですし街中やデパートに飾りがないので、そもそも当地にはデパートもありませんが、クリスマス気分がまったくなく、年末つらい思いをしなくてよさそうです。日本にいた時は、テレビや雑誌の”恋人と過ごすクリスマス特集”に煽られて、”サンタクロース、クリスマス”、というよりは、恋人探しに”さんざん苦労して、くるしみます”、って感じでしたから。
博士:・・・・・・・・・・。今年最後の「博士と助手」は、古典的なしゃれになってしまったな。来年こそは斬新なテーマとしゃれを追求したいもんじゃ。
読者の皆様、それでは良いお年をお迎えください。

Merry Christmas and A Happy New Year

 

「関西オカンの会、、、時々オトンの会」「兵庫県立柏原病院小児科を守る会」共催の”患者力シンポジウム”を参考にさせ ていただきました。関西オカンの会代表の関根友実様、兵庫県立柏原病院小児科を守る会代表の丹羽裕子様に改めて御礼を申し上げます。

子供の救急(日本小児科学会作成)
 

関西オカンの会、、、時々オトン
 

兵庫県立柏原病院の小児科を守る会
 
小児救急冊子他(兵庫県立柏原病院の小児科を守る会作成)
 
ジャムズネット
 
ジャムズネット日本(旧ジャムズネット東京)
























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