大震災の話

2011年4月

助手:

博士、離れていて、これほどもどかしさを感じたことはありませんでした。

博士:

うむ。テレビやネットの情報を見るたびに、震えるような衝撃を受けた。これが、祖国、日本の映像なのかと。

助手:

悲惨な映像が流れ、また原発事故もあったせいか、CNNやBBC他、世界中が注目していましたね。

博士:

うむ。タンザニアの新聞でも連日写真と共に報道されていた。地方に出張した時も、日本人を見ると大丈夫か、と言葉をかけられたと聞いている。

助手:

大使館では弔問もあり、記帳も行われていたとか。

博士:

うむ。政府要人、キクウェテ大統領から、小学校の子供たちまで多くの方が記帳に訪れ、また貴重な寄付・義援金までいただいた。その気持がありがたい。

助手:

東北などの被災地のみならず、関東地区でも停電があったりして、日本中大騒ぎですね。当地なら停電は慣れっこですし、信号に電気が来ていないのは普通ですが、日本ではありえない光景だったんでしょうね。

博士:

うむ。停電といったって、数時間、それも計画的だったわけじゃから、当地とは比べ物にもならない。水や物も足りなくなるなどのデマも飛び、コンビニの棚から商品が消える事態もあったらしい。

助手:

まあ、トイレットペーパーを買い漁るのは、日本人の習性みたいなもんですから、しかたがないですかね。少なくとも大きな略奪、暴動などは起きていませんよね。

博士:

そうじゃな。その辺、海外から見ると、実に不思議な位に日本人は整然としており、賞賛の声も挙がっていた。米国の友人から送られてきた映像を紹介する。http://www.youtube.com/watch?v=kq_q9tVTupI

助手:

"We are the world"ですね。泣けてきます。

博士:

We are the world。ワシも昔聞いた時は、いい曲だとは思っておった。アフリカ支援目的もすばらしいし、その一助になるならと当時LPも購入した。しかし、まさか、このアフリカで、日本のために歌われるこの曲をこんな気持で聞くことになるとは想像しなかった。いかに、当時思っていたアフリカに対する支援といった気持ちが、ひとごとだったのか、今、猛烈に反省している。

助手:

そうですね。私もマイケルジャクソンの歌声だけは記憶に残っています。もちろん、日本人はそんなに整然としていたわけではなく、一部買い占めなども行われていたんだと思いますが、こうして外国の人が動画を作ってくれると、改めて感謝し、自分が日本人であることを誇りに思いますね。

博士:

災害は悲惨なことであったが、このことが、日本人の誇りを思い出させた、という投稿もあった。※ 

助手:

確かにね。それまで、漫然と感じていた厭世観、時代に対する白けた感じ、というのが消え去ったのは確かですね。やらなくちゃ、やればできるかも、という気持ちが出てきたのかもしれません。

博士:

君ですら、そう感じたんじゃから、多くの日本人は、もっと強く意識し始めているはずじゃ。玉音放送以来初めての天皇陛下による国民への直接的なメッセージもあった。※

助手:

終戦時以来なんですか。まあ、私ですら、ここにいていいのか、急いで帰国して何か手伝った方がいいのではないかと、思いました。でも、何をやっていいかわからなかったですね。特殊な技能もありませんし。

博士:

いや、急いで帰国せんで正解じゃった。君の場合には行っても足手まといじゃ。ボランティアの基本は自立だし、また今回の場合現場が混乱しておったから、プロや十分慣れている者でなければ、役に立たなかった。

助手:

でも、何かしてあげたい、と思う人は私以外にも多かったと思いますね。何も出来ないので献血しようとか。

博士:

今回はあまり献血の出番はなかったようじゃな。支援金・義援金を送るという手もある。復興は長期戦じゃから、現地産の物をなるべく買ってあげるという方法もある。

助手:

義援金ですね。ネットでも簡単にできますね。※ 現地産って、でも今回は原発事故があったから放射能汚染とか、ちょっと二の足を踏んでしまいますね。

博士:

しばらく注意が必要なのは確かじゃろう。じゃが、風評被害の方が怖い。根拠のないデマに惑わされるのもよくない。

助手:

うがい薬のイソジン液を飲めとか、塩を買い占めろとか、といったデマですね。友人にも慌てて薬局でイソジンを買いに行った人がいました。

博士:

放射能というのは、見えないだけに、日本人には強いアレルギーがあるな。西欧人やアジアの人も、過剰な反応をしていたようじゃ。喫煙所で、放射能汚染って怖いよね、って話していた、という笑止千万も聞こえてきた。

助手:

なるほど、タバコの方が、よっぽど有害だっていう話ですね。※

博士:

しかし、小さい子どもや妊産婦への対応は異なるから、情報には十分注意して専門家の言うことをじっくりと吟味する必要がある。

助手:

専門家もいっぱいいますよね。日本だと、いろんな番組でいろんな専門家がそれぞれ違ったことを言っていた場合が多かったようで、素人には判断つきにくいですね。

博士:

そうじゃ。あのチェルノブイリ事故でさえ、甲状腺腫瘍になった人は4000人と言われているが、実際に亡くなったのは9人との報告もある※。今は、ネットなどもあるから、疑わしければ自分で調べる、という姿勢もたいせつじゃ。

助手:

ネットと言えば、今回は、阪神大震災の時と違って、ネット情報が大活躍だったようですね。ツイッターなんかも。

博士:

そうじゃな。そこが15年前とは大きく異なった点じゃ。携帯電話は使えなくなったようじゃが、ネットが使える地域は少なくなかったようじゃな。地震発生直後から、ツイッター上でもさまざまな情報が共有され、どこで何が起きているか、どんな対処が必要かが、的確に配信され、それで助かった、あるいは安心感を得られた人は少なくなかった。

助手:

なるほどね。ツイッターって、双方向で質問もできるし、一人じゃない、っていう共感が、生まれたんですね。博士の知り合いも早期から地震関連情報を出していたとか。

博士:

うむ。ジャムズネット東京というHP※で、地震関連情報・医療マニュアルなどを整理して紹介していた。ちょうど週末だったこともあり、数日でアクセスが1万を超えたとのことじゃ。情報源としてはツイッターも大きかったようじゃ。

助手:

そうなんですか。他にも、いろんな団体、学会、組織が、さまざまな情報を出していましたね。特に、阪神大震災を経験した方々からの情報が多かったですね。

博士:

非常に有用な情報も多かった。一方、今回は、阪神の時とは全く異なる規模・範囲の津波被害であり、怪我の手当など外科処置は少なかったなどという違いもあったようじゃ。世界各国から早急に救援隊が派遣されたんじゃが、既に救える命が少なかったという話も聞いている。

助手:
痛ましい話ですね。
博士:
行方不明や確認出来ない遺体は、数万人に達している。

助手:

いまだに避難所にも大勢いて、不便な生活をされているようですね。

博士:

徐々にインフラも整い、物資も運ばれてきているようじゃが、まだまだこれからじゃな。避難所では、窮屈な場所に大勢が集められるので、インフルエンザやノロウイルス等の感染症の拡大も懸念されている。

助手:

水が少なかったようですから、清潔に保つのもたいへんだったようですね。

博士:

加えて、いわゆるエコノミークラス症候群と呼ばれる深部静脈血栓症、さらに肺塞栓なども発生していた。これは、水分の不足、運動不足が原因じゃ。

助手:

心の問題、ストレスもたいへんでしょうね。よく言われるPTSDも、これから問題になるんでしょうか?

博士:

うむ。メンタルヘルスの専門家チームなども現地入りしている。

助手:

こういう時は、被災者の体験を聞いてあげれば良いのでしょうか?

博士:

一部報道で、そういった間違いが放送されたようじゃが、この時点で被災体験を聞き出そうとすることは良くない。特に早期の時点では、基本は、ただ寄り添って、身の回りの世話をしてあげることじゃ。

助手:

そうなんですか? どういう状況だったとか、何がたいへんだったとか、聞いてあげるのが良いのかと思っていました。

博士:

被災者に安心感を与えること、特に子供の場合、今ここが安全な状況にあることを実感させること、それが一番大切じゃ。話を聞くのは、長く接していく中で、本人が話したいと思った時に、聞いてあげれば良い。

助手:

報道機関なんかは、「何がありました?」「今のお気持ちは?」などと、よくマイクを向けていましたが、それは良くないことなんですね。

博士:

うむ。特に子供の場合、繰り返し、災害の映像を見せることはよくない。むしろ、自然に遊ばせる、テレビを見せる場合には、普通の娯楽番組などを見せる方がよい。※

助手:

わかりました。とりあえずは、身の回りの世話ですね。それなら、自分にもボランティアできそうです。

博士:

早期から、パキスタンの人たちが現地に入り、炊き出し、具体的には、カレーやらナンを提供し、評判がよかったとも聞いている。

助手:

なるほどね。そういう支援は、言葉は通じなくても、心温まりますね。それにしても、これだけの大きな被害ですと、復興までは時間がかかりそうですね。阪神大震災でも10年以上かかりましたからね。

博士:

現地の高校の卒業式で校長先生が話しておったが、10年、20年以上かかるかもしれん。しかし、日本を見てみると、絶望している様子は見られない。むしろ希望の光を感じているようにさえ見える。これは、まさに昭和20年の終戦に感じた印象と同じじゃ。

助手:

終戦ですね。確かに、天皇陛下のメッセージもありました。

博士:

それだけの国難であり、陛下の言葉に涙し、復活を誓った国民は少なくない。

助手:

どこぞの知事の発言じゃありませんが、ある意味リセットが必要だったのかもしれませんね。

博士:

亡くなった大勢の方、被災者には申し訳ないが、いや、申し訳ないからこそ、彼らの死を礎にさせていただき、今一度、日本という国の新しい国づくりに、国民全体が一丸となって邁進することが求められているのかもしれん。

助手:

被災地の話を聞くと、その中でも助け合いが行われていますね。

博士:

近年、失われていたコミュニティの絆の萌芽、元々あった日本の良い部分の復活かもしれん。自衛隊、消防隊、警察、医療関係者、ボランティア等々、様々な人たちの活躍が、これほど身近に感じられたことはなかった。それだけでも、大きな意味がある。

助手:

そうですね。本当に、日夜、自分自身の危険を省みず、かつ彼ら自身のご家族も被災しているかもしれない状況の中で、命を賭してがんばっていただきました。そうした姿は、多くの国民の目に焼きついています。世界で唯一、殺した数よりも救った数の多い軍隊としての自衛隊に対する賞賛の声も多い。※ 命を賭して、原発事故の事後処理にあたった職員に対する感謝の気持ちもあちこちで聞いている。※

博士:

我々は、その光景を決して忘れてはいけない。そして、こうした災害時に、誰がどんな行動をとったか、しっかりおぼえておくとよい。こうした緊急時に人の本性が現れる。

助手:

そうですね。私も微力ながら、がんばります。

博士:

停電も物資の不足も問題ではないぞ。村上龍の言葉※ではないが、我々の眼前に今、”希望”があるのは確かじゃ。最後に友人※が紹介してくれた言葉、『平安の祈り』を紹介しよう。

「神様、私にお与えください。 自分に変えられないものを受け入れる落ち着きを、 変えられるものは変えてゆく勇気を、 そして二つのものを見分けられる賢さを。」

"God grant me the serenity to accept the things I cannot change, courage to change the things I can, and wisdom to know the difference."

変えていこう、我々自身を、我々の社会を!!

 

ジャムズネット日本(旧ジャムズネット東京)

東浩紀氏寄稿 NYTimesへの寄稿 "For a Change , Proud to Be Japanese" 16th Mar 2011

天皇陛下ビデオメッセージ

日本赤十字社寄付受付

国立がん研「喫煙とがん」

原子力研究所放射線研究センター

※NYK子供番組YouTube無料配信(配信中止)

※陸上自衛隊活動写真状況

東京消防庁 原発での活動状況

村上龍 NYTimesへの寄稿 "Amid Shortage, Surplus of Hope" 16th Mar 2011

上原立人氏 精神保健福祉士、社会福祉士。医療法人こころの会『たかはしクリニック』所属




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