緊急移送の話
1998年11月
助手: | 博士、最近のインドネシアの保健衛生事情はどうなっていますか? |
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博士: | うむ。長引く経済危機のために深刻な影響が出始めているようじゃ。特に、子供と妊産婦に対する影響が大じゃ。栄養不良児の割合は、最も影響を受けている中部ジャワでこの2年間の間に8%から15%に上昇したとの報告を受けている。 |
助手: | それは深刻ですね。でも新聞などの報道によれば、政府、保健省もこうした貧困層の子供や妊産婦に対する支援を始めているはずですよね。何兆ルピアだっか、相当高額だったように覚えていますが。 |
博士: | 1兆3700億。資金源はIMFとアジア開発銀行じゃ。妊産婦と5才以下の小児を対象としており、直接保健センターレベルに配られる事になっておる。 |
助手: | そうですね。末端まで届くには、その方法が良いでしょうね。上部の役人に渡しただけでは信用できないですよね。でもその金額でまだ足りないのでしょうか? |
博士: | まあ1兆といっても、一人あたりにすれば年間1万ルピアにしか過ぎないからな。 |
助手: | そうか、人口が多いから一人あたりでは100円程度にしかならないんですね。 |
博士: | 栄養バランスも悪くなり、炭水化物ばかりの摂取になり、タンパク質やビタミン類の不足が生じている。ビタミンAの不足は夜盲症の患者を増加させている。 |
助手: | 夜盲症というのは、夜、目が見えなくなる病気ですか? |
博士: | そうじゃ。この夜盲症はビタミンAの不足により網膜にある杵状体の視紅の生産が遅延するために起きるといわれている。 |
助手: | えっ? モーマクにある感情の思考が何ですって? |
博士: | ・・・要するに、夜、見えずらくなると知っておけば良い。 |
助手: | 夜尿症程度ならまだしも夜盲症じゃ、たいへんですよね。 |
博士: | 1980年代、南米を襲った経済危機も酷かったが、この時も早期に、妊産婦、さらに新生児の栄養不良が増加した。このため、政府による食料支援が行われた。その結果として乳児死亡率はそれ程低下しなかったが、後になり食料支援の対象とならなかった成人の栄養不足が問題になり、結核の有病率も増加したと報告されている。 |
助手: | 後になると、結核も増加するんですね。 |
博士: | 上水道の消毒薬が不足する事態になれば、水系伝染病も増加するかもしれん。 |
助手: | 水系伝染病というのは、水を介する病気、コレラや赤痢などですね。 |
博士: | ウイルス性肝炎や、チフス、回虫などの寄生虫疾患もこれに含まれる。 |
助手: | そうなると在留邦人にも影響が出てきますね。 |
博士: | うむ。水道に浄水器をつける等の積極的な対策が必要になってくる。また、病気になった時の備えも十分にしておく必要がある。 |
助手: | ちょっとした病気でかかっても薬代の高騰のため、何十万ルピアとられますよね。入院の場合にはデポジットを入れなければならない、とも聞いていますが? |
博士: | うむ。ドル建てで見れば以前より部屋代は安くなったが、それでも1日40万ルピア位じゃから、400万ルピアを入院時に病院に払わなければならない。治療費がかさむケースではさらに数百万ルピアのデポジットが必要になる。それと、当地での治療が難しい時の事も考えておかんといかん。 |
助手: | 当地での治療が難しい場合というのは、大きな手術などの場合ですか? |
博士: | まず基本的に心臓の手術、頭部の手術などは、当地で受けない方が良い。 |
助手: | 盲腸程度なら、当地でも可能ですよね。 |
博士: | まあ、成人で軽い盲腸、虫垂炎の手術程度であれば、手術そのものは問題ない。しかし、問題は手術後の管理じゃ。術後に何日も食事がとれずに点滴をしなければならないケース、さらに糖尿病や高血圧などの持病を持っているケースでは、当地での手術は大きな危険が伴う。小児の場合はさらにリスクが高くなる。 |
助手: | それは、看護婦のレベルが低いからですか? |
博士: | それもある。専門医が病院にいつも常勤しているシステムではないので、医師が不在の間、点滴の管理ひとつまともにできない事もある。手術後の管理が問題になるケースでは、余裕があればシンガポールや日本での治療を受けた方が良いな。 |
助手: | でも、病気の状態で国外へ移動するのは危険じゃないですか? |
博士: | そのために、緊急移送の保険がある。こうした保険会社は移送についてのノウハウを熟知しておるから、彼らの判断に任せた方が良い。 |
助手: | 保険会社が、移送できると言えば可能という事ですか? |
博士: | そうじゃ。患者の様態に応じて、商用機を使用するか、専用機で運ばなければならないか、移送するタイミングはいつか等々を判断してくれる。 |
助手: | そうか。こうした保険に加入していれば、日本まで無料で搬送してくれるわけですね。 |
博士: | それは大きな勘違いじゃ。移送するかしないか、移送方法はどうするか、移送先はどこにするか、全て無料つまり保険の保証範囲で行えるか、はたまた自費になるかは、全て保険会社が決定する。患者やその家族がいくら希望しても希望通りになるわけではない。 |
助手: | 保険に加入していても自費になる場合もあるんですか。 |
博士: | もちろんじゃ。まず既往症の再発の場合は支払いの対象にならん。また、海外旅行障害保険に付随している移送は、あくまで保険契約料の範囲で行われる。疾病で200万円しか加入しておらず、また救援者費用にも保険をかけていなければ、当地で使用した医療費を差し引くとシンガポールまで移送する事も難しくなる。自費で移送した場合、医師の付き添い込みで200万円以上になる。日本まで専用機で行った場合には、1千万円以上かかると考えておいた方が良い。 |
助手: | そんなにかかるんですか。私の場合、いくら旅行障害保険にかけていたかな? それほど高額には加入していなかったと思いますね。 |
博士: | だいたいの場合、そういうケースが多い。いざそういう事態になって初めて保険契約証を見るという場合がほとんどじゃ。まあ、保険会社の方でも加入の段階であまり丁寧に説明してくれない事にも原因があるがな。 |
助手: | 日本まで行きたくても限度額を超えていたり、状態が悪ければ無理なんですね。そうするとシンガポールの病院へ、という事になるんでしょうね。でも、シンガポールの医療費も高いと聞いてますが? |
博士: | うむ。信頼できる私立病院に入院した場合、1日最低500USドル位はかかる。シンガポールの病院に1ヶ月も入院してさらに手術まで受ければ、たいへんな金額になる。保険金限度額の200万円程度では、とても足りない。 |
助手: | そうか。病気や怪我にあってからあわてても遅いですよね。私も早めに保険証の契約事項を確認しておく事にします。金額も上げなきゃだめかなー。 |
博士: | まあ、とにかく当地で病気や事故にあった場合には、何はともあれ保険会社に早めに連絡をしておく事が肝心じゃ。たいていのアラームセンターは24時間日本語対応可能などと明記しているが、実際は土日や深夜などの場合、連絡がとりづらい事もある。一刻を争う緊急事態になる前に、早めに一報を入れておく事が肝心じゃ。 |
助手: | 移送になりそうもない場合もですか? |
博士: | そうじゃ。電話して相談するだけなら、フリーダイヤルも利用できるから無料 じゃ。移送の可否はあくまで保険会社が当地の医師などと相談して決める事じゃから、知らせておいて損はない。 |
助手: | 治安さえ良ければ、当地は遊ぶ所もたくさんあるし天国だと思ってましたが、病気や事故の時の事を考えるとやはり日本のようにはいかないんですね。 |
博士: | 当地で生活をエンジョイするのは構わんが、いろいろな事態を予想して、それこそ保険をかけておく必要はあるな。 |
助手: | 家に入る泥棒以外にも、車のミラーやホイールキャップの盗難の被害も多くなっているようですから、携行品や車の保険にも入っていないといけませんよね。 |
博士: | そうじゃな。何事も備えあれば憂い無しじゃ。日本に住んでいると、水と安全はただ、という意識があるが、外国ではそうはいかん。 |
助手: | でも最近は、日本の状況も変わりつつあるようですね。安心して水道水や清涼飲料も飲めないし、銃による犯罪なども増えているようですしね。 |
博士: | それでも、まだ件数から言えば、日本の方がはるかに安全じゃからな。 |
助手: | 備えあれば憂い無し。出かける前は忘れずにですね。そう言えば、クレジットカードにも旅行中の疾病や移送についての保証がされていますよね。 |
博士: | うむ。カードによっては日本を出て90日以内等の規定はあるが、旅行障害保険が自動付帯しているものもある。しかし、調べてみると、たいてい疾病治療保証は100万円から200万円程度、緊急移送費用も100万円程度じゃから、これだけでは不十分じゃ。 |
助手: | でも、日本から旅行で来た親や友人が病気や事故に遭った時には使えますね。 |
博士: | 確かにな。連絡するだけの価値はある。この場合も早めに記載されているアラームセンターに連絡をとる事が肝心じゃ。 |
助手: | 博士、ホールインワン保険というのもありますよね。この間、ワンオンしたボールがホールのわずか右をかすめていきましてね。危うく散財するところでしたよ。 |
博士: | それは危なかったな。でもボールは結構転がって、結局3パターのボギーだったと聞いておるぞ。 |
助手: | あれ、知ってました? いやー、ホールインワンだったかもしれないとの興奮が残って、パットでびびっちゃいましてね。でも実におしかったな。3cmでも左にずれて転がっていれば、ホールインワンだったのにな・・・。 |
博士: | たられば、じゃな。結局その後のホールから崩れて今回も100を切れなかったようじゃしな。じゃが、確かに初心者の内にホールインワンする例もあるらしいから、心配なら保険に入ってもいいかもしれんな。 |
助手: | 博士、100保険というのはありませんかね。加入すれば、100切れない時に保証してくれる、とか。 |
博士: | そんなのがあったら、わしもとっくに加入しとる。 |
助手: | それじゃあ、スリーパット保険。スリーパット以上するとお金が入るとか。 |
博士: | そんなものも無い。どこの保険会社がそんな保証をするか。 |
助手: | それじゃあ、池ポチャ保険。チョロ保険、ひっかけ保険、OB保険もほしいな。 |
博士: | あったとしても、そんなに入っていたら保険料だけでパンクするぞ。 |
助手: | 破産しそうになれば、ヒ素でも使って誰かを入院させてお金を受け取りますよ。 |
博士: | おいおい、ヒ素だなんてぶっそうな話になってきたな。君はこっそりわしに保険をかけていないじゃろうな。 |
助手: | 大きな声では言えませんがね。実は、他の同僚とこっそり相談して・・・ |
博士: | どおりで、わしが来ると君らは、ひそ・ひそ話、・・なんて冗談言ってられん。 |
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