更年期の話

2005年5月

助手:今回は、婦人部の皆様よりいただいた質問からテーマを選んで、博士に答えてもらう事になりました。博士、よろしくお願いします。
博士:責任重大じゃな。どんな質問が出ておったんじゃ?
助手:更年期の過ごし方について質問されている方が多数いらっしゃいました。更年期という言葉はよく聞きますが、具体的にはどんな症状なんですか?
博士:一口に更年期といっても症状はさまざまじゃ。特徴的には、のぼせ、顔や胸のほてり、異常な発汗、動悸、頻脈、手足の冷え、不眠、イライラ感、うつ気分、頭痛や肩こり、耳鳴り、めまい等多様じゃ。一般には自律神経失調症と呼ばれている多くの症状が含まれている。その他に、皮膚や粘膜が乾燥する事による湿疹や皮膚感覚の異常、眼のゴロゴロ感、胃のむかつき、膀胱炎が起こりやすくなったりするケースもある。
助手:ずいぶんといろんな症状があるんですね。でも若い人にも起こりそうな症状もありますが、更年期によるものかどうかは、どうすればわかるのですか? やはり年齢でしょうか?
博士:女性ホルモンの低下が始まるのは40代後半からで、50歳過ぎで閉経を迎えるから、この時期に生じる。しかし最終的には卵巣機能のチェック、具体的には採血検査を行い女性ホルモンであるエストロゲンの低下を確認する必要がある。20歳から30歳代で起こった上記のような不定愁訴は、卵巣機能の低下が原因ではなく、不規則な生活やストレスによる自律神経の乱れが関係している事が多い。
助手:

卵巣機能の低下、ホルモンの低下が原因なんですね。そうすると女性ホルモンであるそのエロゲンとか何とかを補えば治る、という事ですか?

博士:

エストロゲンじゃ。エストロゲンを補う治療がホルモン補充療法HRTと呼ばれるもので、ほてりや発汗等の症状にはかなりの効果がある。うつ気分や不眠などの症状も1ヶ月ほどで軽くなる事が多い。しかし、全ての症状が改善されるわけではないし、人によって副作用のためかえって体調が悪くなる事もある。

助手:

どんな副作用が知られているんですか。

博士:

アメリカの大規模な調査では、補充療法を受ける事で相対危険率が上昇した疾患として、心筋梗塞、脳卒中、静脈血栓症、乳ガン、大腸癌などが挙がっている。

助手:

けっこうたいへんな病名が並んでいますね。

博士:

ただ、この結果は日本にそのまま当てはめることはできない。というのは、この調査の場合、調査を受けた人の7割は肥満者、平均63歳と高齢、さらに半数は喫煙者であった。従って、肥満や年齢や喫煙による影響が考えられ、データとしてそのまま持ってくる事はできない。乳ガンの発生率についても、エストロゲンの錠剤を5年間服用した場合で1万人に38人、飲まなかった場合1万人で30人という事で26%の増加という数字になっているが、1万人で8人の差を多いと考えるかどうかじゃ。

助手:

うーん、難しい。何とも言えないですね。

博士:

実は、この調査はホルモン補充療法によって骨粗鬆症や心臓病が予防できるのではないかという期待があり、それを調べる目的で行われた。しかし、残念ながら否定的な結果に終わっている。

助手:

結局、ホルモン補充療法は更年期の症状には有効であるが、他の病気の予防になるかは不明。発ガンのリスクも否定できないという結果ですね。最終的にはメリット、デメリットをよく考えて選択した方が良いという事になりますかね。

博士:

うむ。しかし発ガン性に関しては容量依存性であるから、低容量、短期間であれば心配はいらないと考えられている。従って、症状がつらい場合にはホルモン補充療法についてのメリットは大きい。

助手:

わかりました。それでもホルモン補充療法はいやだ、という場合の他の選択肢ってありますか?

博士:

漢方薬、という手もある。

助手:

漢方薬ならば副作用もなさそうですね。

博士:

勘違いしてはいけない。漢方だろうがアーユルベーダだろうが副作用のない薬はない。しかし、漢方は、古来から女性特有の体の変化を重視して長い年月にわたる臨床経験に基づいて確立されてきておるのは事実じゃから、経験豊富な医師の指導のもと、患者さんの体質、漢方では証と呼んでいるが、症状に合わせて処方してもえるのであればホルモン療法に勝るとも劣らない効果が期待できる。

助手:

そうですか。でもインドで経験豊富な漢方医を探すのは難しいですよね。サプリメントや食べ物で何か有効なものはありますか?

博士:

更年期以後女性は骨密度が低下し、骨粗鬆症になりやすいのだが、この予防にカルシウム製剤やビタミンDが有効じゃ。香辛料を多く含む飲み物カフェインやアルコールはほてりを助長する事があるので避けるのが賢明じゃ。他、ほてりを軽減させる作用が知られているものにビタミンB群やE、あるいは植物性エストロゲンがある。植物性エストロゲンを多く含む食品としては豆腐、豆乳、みそ等がある。

助手:

こつそそうしょう。難しい漢字ですね。それにしてもやはり豆腐、豆乳、みそですか。インド食ではなく日本食ですね。インドで何か有効な物はありますか?

博士:

インドで多く販売されているある種のハーブには更年期の症状を和らげる働きがあると言われている。しかし残念ながら科学的データは少ない。

助手:

その他、インドで出来る対症療法はありますか?  

博士:

運動、スポーツにホルモン補充療法と似た効果が得られる事が知られている。

助手:

でも、この暑いインドでスポーツですか?

博士:

まあ、そこは昼間の気温が40度を超えているデリーじゃから、熱射病にならないように、十分に水分をとりながら、無理をしないという姿勢は必要じゃ。しかし、ただでさえ使用人さんがいて、日頃の家事労働から解放されていて、移動も車のみとなれば、運動不足は避けられない。そもそも更年期になると体力に自信がなくなり引きこもってしまいがちじゃからな。

助手:

そうですね。通勤もない。買い物で歩き回ることもない、となれば運動不足になってしまいますよね。どんな運動が良いでしょうか?

博士:

そうじゃな。長く続けられるもの、出来れば気のあった仲間と出来るものが良い。テニスでもゴルフでも水泳でも何でも良い。汗をかく、筋肉を鍛える事により新陳代謝が改善される。そして、何より仲間と楽しく運動する事により孤独感が解消され、連帯感も生まれる。軽い運動であっても長く続ける事により、達成感が得られ、自信につながる。

助手:

なるほどね。更年期では体力や精神面でも自信を失っていて、それが悪循環になっているというわけですね。スポーツはストレス解消になりますね。

博士:

うむ。更年期の症状の増減は精神的なストレスが大いに関係しているんじゃな。

助手:

ただでさえストレスの大きいインド生活ですからね。

博士:

そうじゃ。更年期というのは、個人差はあるが、女性なら誰にでも訪れる重要な人生の転換期であり、この時期に起こる心と体の変化を自分自身でよく知っておく事、そして周囲もそれを理解してあげる事が重要じゃ。年齢的に夫や子供との関係、親の介護問題、などなど精神的にも大きく揺れ動く時期でもある。まして、こうした途上国に住んでいれば相談できる相手は限られてしまうから、ご主人のサポートが重要じゃな。

助手:

ご主人がかなめですね。博士、男性にも更年期って、あるそうですね。博士はどうですか?

博士:

わしの場合は、今のところ特に症状はない。心配なのはむしろ君の将来じゃ。

助手:

そうですね、博士のお年なら心配ないですね。十分、年金もらえますからね。我々の世代が年取った時にどうなるか本当に心配です。私の場合、更年期というよりは、請う年金、なんて。

博士:

うーむ。君の場合は、年金の心配よりも今の仕事をしっかり・・・

 


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