生活習慣病の話

1999年5月


助手:最近雨が多くて運動不足気味だったんで、少し太ってしまいました。
博士:それはいかんな。当地の食べ物は元々油を使う料理が多いから、君のように外食ばかりしているケースでは、よく注意して体重にも気を配らんといかんぞ。
助手:まあ、時々お腹をこわして体重を減らしていますから、全体で見るとそれほど増えたわけではないんですが。
博士:下痢で体重が減っても、少しも良い事はない。治った後、反動でよけいに食べたりしてしまうからな。
助手:それにしても確かに、当地の食べ物は油物、ゴレンや極端に甘い物が多いですね。
博士:うむ、揚げ物が多いのは熱帯で食あたりを防ぐための知恵ではある。それにしても運動量も少ないためかインドネシア人に高脂血症は多い。疾病統計を見ても心臓血管疾患が上位を占めている。とある企業の検診結果によると受診者の40%に高コレステロール血症が認められた。
助手:そんなに多いんですか。経済危機の影響で栄養不良児が増えていると新聞で報道されている一方で、高コレステロール患者も多いんですね。矛盾してますね。
博士:邦人系企業に勤めている高給取りの検診データじゃから、一般のインドネシア人全体にこの結果を当てはめるわけにはいかんかもしれん。しかし好きなように食事をしていればこういう結果になる、と言う事じゃ。
助手:そうですね。彼ら高給取りは運動もしていないですね。階段も全く使いませんよね。一階降りるにもエレベータを使っているんで、後ろから蹴りを入れてやろうと思う事もありますが、まあお金に困らない人が好き勝手に食べていると、そういう結果になるわけですね。でも、日本人の場合でも一緒ですか?
博士:そうじゃ。日本人の場合には生活習慣病の事を知らん者はおらんから、多少の知識はある。しかし気を配らなければ同じ結果になる。
助手:生活習慣病というのは、以前成人病と言われていたものですよね。
博士:うむ。40才以降に増えてくるという事で成人病と呼ばれていたが、年齢とは関係なく生活習慣を改善する事により防げるという意味合いで、生活習慣病と変更されたんじゃ。
助手:食事や運動以外には、どんな生活習慣が関係するんですか?
博士:ブレスローという学者が規定した7つの健康習慣がある。1,適正な睡眠時間。2、喫煙をしない。3,適正体重を維持する。4,過度の飲酒をしない。5,定期的に運動する。6、朝食を毎日食べる。7、間食をしない。というものじゃ。この健康習慣を実施していればいるほど病気に罹りにくく、また寿命も長い事が明らかになっている。
助手:プロレスラーの健康習慣ですか? スクワットを毎日やるとか。
博士:ちゃう。プレスローじゃ。
助手:うーーん、私の場合は、1つ2つ・・ほとんど守れていないですね。とほほ。そうすると病気になってもしかたが無い、自分が悪いというわけですね。
博士:いや、そうとばかりも言えん。病気の発症や予後に関係しているのは、上記の生活習慣ばかりではない。他に、遺伝的要因、外部環境要因の2つをあげる事ができる。これらの相互作用により病気は発症する。
助手:そうか、自分の責任ばかりというわけでは無い訳ですね。肥満者が自分をコントロールできないと判断されて企業でも首を切られるというケースを聞いた事がありますが、がんばってもやせられないケースもあるんですね。
博士:うむ。確かに肥満の場合も遺伝的要因が明らかにされている。さらに環境、ストレスも病気の発症には大きく影響している。
助手:そうですよね。私は仕事上のストレスで飲酒量が増えてますからね。肝臓を悪くしても仕方がない。なるほど。ところで博士、具体的には生活習慣が悪いとどんな病気になりやすいのですか?
博士:勝手な理屈をつけておるようじゃが。まず、生活習慣が悪いとなりやすい病気に癌を挙げる事ができる。
助手:そんなもん、挙げてくれなくても良いんですけどね。癌はやっぱりタバコですか?
博士:喫煙と関係が深いものとして、肺癌、口腔癌、咽頭癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、膵臓癌、膀胱癌、子宮癌、慢性骨髄性白血病などがある。多量飲酒に関係したものとしては、喉頭癌、食道癌、肝臓癌などがあげられる。喫煙や飲酒以外でもストレスや他の生活習慣も癌の発生に関係がある。ある研究によれば、不良なライフスタイルは染色体を変異させ、癌化のリスクを上昇させるとしている。
助手:そうなんですか。ライフスタイルで癌ですか。他にはどんな病気になりますか?
博士:高血圧や糖尿病、動脈硬化性の疾患、具体的には狭心症などの虚血性心疾患、脳血管障害などもある。
助手:そう言えば、日本では糖尿病も増えているらしいですね。一説には一千万人以上がその可能性があるとか。
博士:うむ。特にインスリン非依存型と呼ばれる糖尿病については毎年増加の一途をたどっている。平成9年度の厚生省の実態調査によれば推定患者数は690万人、予備軍まで含めると1,370万人にのぼると推定されている。糖尿病は遺伝的要素も大いに関係するが、最近急に日本人の遺伝素因が変化したとは考えられないから、これはひとえに環境因子、すなわち生活習慣の変化が原因であると思われる。
助手:グルメブームもありましたが、食べ過ぎっていう事ですか?
博士:摂取総カロリーは過去20年、むしろ減少傾向にある。しかし1970年以降、糖質の摂取が減少しタンパク質や脂質の摂取が増加している。特に脂質の摂取に関しては20才代、30才代の若年層でその増加が顕著になっておる。
助手:若い人はファーストフードばっかり食べてますから、そのせいですかね。
博士:確かにな。外食やファーストフード、冷凍食品ばかりでは栄養は偏る。将来に向けて若年層での糖尿病の増加が心配されている。
助手:そうするとやっぱり、日本食ですかね。焼き魚にみそ汁、卵かけご飯、あー食べたいな。
博士:一日3回規則正しい食事を行う。早食いはしない、ゆっくりよく噛んで食べる。冷凍食品やファーストフードは柔らかいものばかりじゃから、噛む習慣が身につかない。
助手:そういえば、私もあんまり噛んで食べてないなー。
博士:君は飲み込みも悪いしな。
助手:ええ、理解力が悪くて。・・・それは別の話でしょ。
博士:それと、外食はできるだけ避ける。飲酒量も増えるしな。
助手:独身のジャカルタ生活ではそれがなかなか難しいんですよねー。でも酒は百薬の長とか言いますよね。赤ワインが体に良いなどという話も聞きますけど。
博士:飲酒に関して言えば、純アルコール量に換算して日に約30mlが適量じゃ。ビールなら大瓶1本、日本酒なら1合、ワインならグラス2杯程度じゃ。
助手:そんなんじゃ、まだ宵の口どころか、昼食の一杯程度ですけどね。
博士:純アルコール30mlの量ならば、総死亡率は飲まない場合よりも低い。しかし悪性新生物、いわゆる癌は、飲酒量の増加とともに死亡率は高くなる。脳卒中、肝硬変の死亡率も飲酒量の増加とともに高くなる。高血圧についても飲酒量が多いほど頻度は高くなる。
助手:赤ワインでも同じですか?
博士:赤ワインに含まれているポリフェノールが抗酸化作用を有する事から最近ブームになったが、特定のアルコール類が健康に良いとする根拠は示されておらん。ポリフェノールなら果物や野菜、お茶などにも多く含まれているから、盲信してワインをがぶ飲みするのでは健康に良いわけはない。
助手:そうなんですか。私は赤ワインが体に良いと効いてから、自分ではあまり買わないんですが、国際線の飛行機に乗るたびに赤ワインを頼んでいますけどね。この間なんか、何回もおかわりを頼むもんだからスッチーにいやな顔をされて、しまいにはボトルで置かれてしまいましたがね。
博士:エコノミークラスでか? 飲み過ぎて立ち上がれなくなり、車椅子で運ばれるような事にならんようにな。
助手:そんな事が実際にあったらしいですね、とある成田-ジャカルタ便で。酒は程々に、ですね。健康習慣に運動もありましたが、運動も程々が良いのでしょうか?
博士:そうなんじゃ。適度な運動は血液中のコレステロールを下げ、動脈硬化性疾患を減らす。インスリン抵抗性を低下させる事により糖尿病を減らし、血圧も下げ、もちろん肥満にも効果がある。特に動脈硬化性の心血管病変を減らす事により全死亡率を低下させ、寿命を延ばす事がラットの実験で証明されている。しかし、これはあくまでコンディショニングを目的とした運動、つまり1回20分、週3回程度の中程度の運動である。競技としての激しい運動では無い。
助手:オリンピック選手がするような激しい運動が体に良いわけでは無いんですね。
博士:まあ、競技スポーツは健康が目的では無いから全く別物と考えた方が良い。コンディショニングとしての運動は、ストレスを減らす作用もある。
助手:それにしても健康になるにはたいへんですね。タバコも吸えない、酒もたくさん飲めない、食べ過ぎもできない。うーん。私、健康にならなくても良いです。全部守っていたらストレスで死んでしまいます。
博士:すごい落ちじゃな。4頁にわたって説明しておるのに、健康にならなくても良いですじゃ、何のためにわざわざブリタジャカルタの貴重なページをいただいているかわからん。せめて、どれか一つでも守るように約束しなさい。
助手:そうですね。それじゃ。健康習慣の1番。適正な睡眠時間をとる、にします。最近寝不足で。
博士:夜遅くまで遊んでいて、なおかつビデオを遅くまで見ていては寝不足になるな。
助手:そうなんですよ。まとめて借りると安いんですが、見始めると一気に見てしまうんですよ。日本だと毎週待たなければならない連続ドラマが、初回から最終回まで1回で見れますからね。毎回思わせぶりな終わり方をするもんだから、つい次の回も見てしまうんです。
博士:すっかりはまってしまっているな。健康習慣の8番目に、ビデオを長時間見ない、というのを加えんといかんようじゃな。
助手:9番目に、仕事は遅くまでしない、夕方4時までで良い。10番目に、朝は早くから働かない、10時頃からが適当である。11番目に、仕事中上司は部下にストレスを与えない、叱らない。12番目に、年休は1ヶ月できちんと消化する。休暇中の旅費も会社が面倒を見る。ていうのも加えていただけないでしょうかね。プロレスさんに頼んでくれませんかね。
博士:そんなんじゃ、健康習慣じゃなくて、けっこう習慣にしかならん。それにプロレスじゃない。プレスローだっちゅうに。
助手:13番目に、職場にきれいな女性を配置する、というのも良いですね。
博士:それセクハラ発言になるぞ。それに・・・
助手:14番目に、給料は月1万ドル位。15番目に、週末はマッサージを、等々。さあ、読者の皆さんも考えて、一緒にプロレスさんに頼みましょう。宛先は、ホームページのメールアドレスまで・・・

 


コメント

このブログの人気の投稿

医療落語「博士と助手」オリジナル

南海トラフ地震 関連情報

著書:想像を超えた難事の日々(増刷)