情報の話

2000年4月


助手:春は人事異動の季節ですね。
博士:そうじゃな。3月、4月は赴任を終えて帰国された方も多かった。
助手:我々も長くなりましたね。
博士:うむ。連載を初めてからでも既に2年半以上経っておる。
助手:丁度経済危機が始まった頃でしたね。
博士:そうじゃな。大統領も3人見る事が出来た。その前の32年間は一人だったわけじゃから、この3年はたいへんな時代じゃった。
助手:博士、医療の面はどうなんでしょう。良くなっているんでしょうか?
博士:ここ10年で乳児死亡率、即ち生まれてから1歳までに死亡する割合は、インドネシアも随分と改善された。この点では、政府なり保健省の政策は功を奏していると言える。しかし、妊産婦死亡率に変化は無い。出生10万に対して375人も死亡している。
助手:公式発表の平均値なんでしょうから、地方では、出生100人に対して1人が死亡なんていう地域もあるかもしれませんよね。
博士:うむ、その可能性はある。主として中絶後の感染症が原因のようじゃ。この国では基本的に中絶は違法じゃからな。
助手:違法中絶を行っていた医師が逮捕されたニュースもありましたね。
博士:インドネシアでは年間230万件の中絶が行われているとの予測もあり、現実を直視すれば、違法として罰するだけでは解決できない問題になっている。経済危機の影響で避妊薬や注射も高価になっているから、その影響も懸念されている。
助手:病院の質はどうでしょう。昔に比べて良くなっていますか?
博士:確かにジャカルタやスラバヤ等の大都市には、設備だけならば先進国に負けない位の病院も出来ている。見た目も清潔じゃ。しかし、大都市と地方の格差は大きい。
助手:ジャカルタには結構立派な病院がたくさんありますよね。
博士:そうじゃな。ただ、まだまだハードにソフトが追いついていない。医者の体質は20年前とそう変わっていない。
助手:「藪医者との付き合い方」、と言うタイトルの記事が新聞の一面に出ていた事もありますね。
博士:一般の人々の医者や医療に対する認識がよく出ていた記事だったな。医者に対する信頼は低い。また医療訴訟そのものもまだほとんどない。欲の深い医者ばかりが目に付くのかもしれん。
助手:盲腸と閉経前の女性の患者は、医者にとっての金のなる木だ、なんて書いてありましたよね。自由診療だから、やりたい放題なんですかね。
博士:そうだな。病院から月20万ルピア程度の給料しかもらっていない医者もいるが、一方で月に100ジュタルピア以上稼いでる医者もいる。
助手:150万円位ですか。すごいですね。
博士:そしてそういう医者は多くの場合、閉鎖的なファミリーを形成している。彼が医学的技術を伝えるのはファミリーの一員として選んだ少数の医者だけであり、金銭的おこぼれをあずかるのも少数の関係者だけだ。
助手:そして、医師を監視する組織もなく、訴訟もなければ、ほんと天国ですよね。
博士:うむ。まあ、もちろんそんな医者ばかりではない。貧乏な人達にほとんど無料で診察を行っている聖人のような人もいる。
助手:でも、そんな事だから、お金持ちのインドネシア人はシンガポールの病院に行っちゃうんでしょうね。
博士:そうだな。シンガポールのマウント・エリザベス病院の顧客の3割はインドネシア人と聞いている。
助手:そして、一方で貧しいインドネシア人は病院に行かず、ジャムーを飲んだり、ドゥクンに行ったりするわけですね。
博士:そういう状況は、ほとんどこの10年、いや20年でも変わっていないな。ただ、20年前だと邦人が利用できるのはプルタミナ病院くらいじゃったから、使える病院は増えた。
助手:でも、ソフトは? 医者は? 看護婦は?、っていう事ですね。
博士:新聞の記事でも言っていたが、とにかく医者に行き診断を受けたら、それがもし手術とか大きな処置が必要という場合には、必ずセカンド・オピニオンを求める事が必要じゃ。
助手:他の医者に聞けという事ですね。
博士:そうだ。2カ所で全く同じ事を言われたら診断が正しい可能性が高い。しかし、実際にそうした手術等の処置を当地で行うかは別問題じゃがな。
助手:緊急の場合は仕方がないかもしれませんけどね。
博士:うむ。加入している旅行障害保険会社とまずは相談してみるのが良い。処置を受ける前、なるべく早い段階から連絡する必要がある。数回の手術を当地で受けてからでは遅すぎる。保険会社に連絡するだけなら無料、フリーダイアルじゃから利用しない手はない。
助手:とにかく、いろんな人、医者の場合でも違う人に聞いて総合的に判断する、という事になりますね。
博士:まあ、日本の場合でもセカンド・オピニオンの重要性が言われている位じゃから、当地ではなおのことじゃな。
助手:そうですよね。手術患者の取り違えや点滴薬の間違いやら、日本も結構問題ありますよね。
博士:患者さん自身が知識を持って治療を受けなければならなくなった、という事で昔より難しい時代になったのかもしれん。
助手:一般の人向けの医療情報も溢れてますね。新聞、テレビ、インターネット等で健康を扱うプログラムは山ほどありますね。
博士:だが玉石混合じゃ。いい加減な物もあるから選択するのが難しい。
助手:この「博士と助手」シリーズは、玉ですかね石ですかね。
博士:判断は読者に任せる。いずれにしても、ここジャカルタでもいろいろな医療情報が流布されているのだから、一カ所に頼らずに集めて判断してほしいものだ。
助手:新しく着任される方で、何にも情報を集めていない人もいますよね。心配じゃないんですかね。
博士:まあ、何とかなる、と思っているんだろうし、また過度に心配しすぎてもいかんが、赴任前の情報収集は着任後のカルチャーショックを減らす事に大いに役立つはずじゃ。
助手:そうですよね。どこの店がおいしいとか、どこの店が安いとか、どこの店の子がかわいいとか、ね!
博士:ね!、じゃないだろう。そういう情報ばかりじゃなく、赴任前の予防接種は何が必要かとか、どんな薬を携行したら良いかとか、どんな食べ物に注意すれば良いのかとか、どこの医者が良いとか、どこの病院が良いとか、障害保険はどこが良いとか、大事な情報を得ておかんといかんぞ。
助手:ジャカルタの地図は大分頭に入っているんですがね。北はどっちとか、南はこっちとか・・・
博士:なんか、怪しいな。君は裏道ばかりに詳しいようじゃな。
助手:ええ、裏情報はばっちりですよ。今度、本出しましょうか。「博士と助手 ジャカルタ裏情報」っていう題で。
博士:何じゃ、それは。でも、そっちの方が売れそうじゃな。君、書いてみるか。
助手:止めておきます。表版の方が売れなくなると困るでしょ。寄付もありますし。
博士:君も寄付をしなさい。
助手:そうですね。それじゃ、地方から出稼ぎに来ていてその収入で多くの家族を養っているきれいなお姉さん方に寄付する事にします。
博士:そんなファンドはない。寄付とも呼ばない。
助手:でも助ける事には違いない・・・
博士:全然違う。だいたい君が助けられているんじゃろ、そもそも。
助手:面目ない。仕方がないので、表版の方をせっせと売らさせていただきます。さー、買った、買った。今なら、助手の裏情報付きだよ、って。
博士:そんなバナナ。
助手:えー? たたき売りだけに、バナナですか? すっごい落ちですね。
博士:心臓手術を待つ子供達のために、しゃれもジョーホーしてくれ。情報の話だけに・・・・・・

 


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