高山病の話

2009年 1月

助手:博士、開けましておめでとうございます。
博士:おめでとう。アフリカで初めての正月じゃな。どうじゃった?
助手:暑いですし、特に面白い行事もなかったので暇していました。
博士:暇だったのなら、キリンマンジャロに登って御来光でも見てくれば良かったのにな。
助手:この時期、けっこう登る人が多いようですね。私は全く体力に自信がありませんので、無理です。
博士:キリマンジャロは欧米や日本からの登山者も多く、最近は高齢者も増えている。
助手:高齢者もですか? 高山病大丈夫なんでしょうか?
博士:

慢性閉塞性肺疾患や心臓病などの病気を持っている場合は別じゃが、高山病そのものは年齢と直接の関係はない。若い人でも発症する。

助手:それなら高山病になりやすいのはどんな人ですか?
博士:

海抜の低い地域に住んでいる人や、高地に着いてすぐに激しい運動をした人が高山病を起こしやすいのは確かじゃが、どんな人がなりやすいかは、まったくわからん。生まれつきの体質としか言いようがない。

助手:

オリンピックのマラソン選手など、よく高地でトレーニングして慣れさせると聞きますから、慣れるということはあるのではないですか?

博士:確かに高地順応ということはある。しかし、この効果は短期間じゃ。元々高地に住んでいた現地の住民であっても低地で長く生活して高地に戻れば、高山病を起こすこともある。
助手:そうなんですか。どの位の高さから高山病になりますか?
博士:個人差はあるが、標高2500メートル程度から出現する可能性がある。高山病の原因は空気中の酸素欠乏じゃが、標高2400メートルでは25%、エベレストの山頂8800メートルなら66%酸素が減少している。
助手:2500メートルというと日本の山でも起きるということですね。キリマンジャロ登山の場合だとどの地点になりますか?
博士:キリマンジャロの最高点ウフルピークは5895メートルじゃが、麓の町モシは850メートル。マラング・ルートの場合で言えば、マンダラゲートが1850メートル、マンダラハット(山小屋)が2700メートルじゃ。
助手:そうすると人によってはマンダラハット地点でも高山病になるということですか?
博士:可能性はある。まあ、3000メートル未満であれば、軽い急性高山病程度のはずじゃ。山酔いと言われ、頭痛、ふらつき、息切れ、食欲不振、吐き気、睡眠障害など、二日酔いに似た症状じゃが、この程度であれば通常は2-3日で順応する。
助手:山酔いですか。いやですね。マンダラハットの次に休む地点はどこですか?
博士:次の山小屋の地点はホロンボハットで標高3720メートルじゃ。
助手:富士山位ですね。
博士:そうじゃ。3000メートルを超えると、より重症な高山病、高所肺浮腫や高所脳浮腫を起こす可能性が出てくる。4000メートルを超えるキボハットの地点では多くの人が何らかの症状を訴える。
助手:浮腫というのは、むくむ、ということですよね。
博士:そうじゃ。酸素不足が進み、毛細血管から周辺組織に血液中の水分が漏出してくる。これが浮腫じゃ。水が肺に貯まれば肺浮腫、脳に貯まれば脳浮腫となる。顔や手足もむくんでくる。
助手:

顔や手足が腫れる程度なら良いかもしれませんが、肺や脳が腫れたらたいへんでしょうね。 

博士:
うむ。酷くなれば命にかかわる。肺浮腫は高地に来て2日目の夜、寝ている間に悪化し重症化することが多い。息切れ、咳、ピンク色の痰、錯乱などの症状がでる。
助手:
寝ている間に悪くなるというのはいやですね。一人にしておけませんね。どうして夜なんですか?
博士:
睡眠中は起きている時に比べて呼吸の回数が減る。そのため、より低酸素となってしまうんじゃ。アルコール、睡眠薬、安定剤などは呼吸状態を悪化させることがあるので、高地では勧められない。
助手:
寒い山小屋での熱燗はおいしいだろうと思いましたが、だめなんですね。
博士:
うむ。君のように着いた日にはしゃぐのもよくない。高所に着いた日は順応のため1日ゆっくりしてなるべく動かないようにしておく方が良い。十分な水分を摂ることも重要じゃ。
助手:
やっとの思いで来たんですから、はしゃぎたい気持ちになりますよね。でも、高山病にならないようにするには、ゆっくり登るということが必要なんですね。
博士:
重症度は登る高さと時間によって決まってくる。短期間に2400メートル高度を上げた人の10%、2700メートル上げた人の25%、4200メートル上げた人の50%に急性高山病が発生すると言われている。最初の2400メートル登るのに2日をかけ、高度をさらに300~600メートル上がるごとに1日かけるのが良いとされている。この高度の基準は登った最高地点ではなく、眠る場所の高度じゃ。そして、高度を1000メートル上げるごとに1日休息をとることを、ヒマラヤ救助協会等は提唱している。
助手:
それでも高山病になってしまったらどうすれば良いですか? 
博士:基本的な治療は楽になる地点まで高度を下げること。症状が軽い場合には、そこにとどまっていれば慣れることもあるが、悪化する場合には直ちに下山すべきじゃ。
助手:
酸素ボンベは効果がないのですか? 団体旅行で登山している場合など、一人だけで下山するのは気が引けますが。
博士:
酸素吸入、ガモフバック(携帯型加圧バック)、薬(アセタゾラミド等)の内服なども効果があるが、あくまで時間稼ぎにすぎない。基本は下山じゃ。
助手:
そこまで来て下山するのは勇気がいりますが仕方がないですね。今回は、この辺がキリジャロって断念するしかないですね。・・・・マンが抜けたしゃれですが。
博士:
マンがいち、っていうこともあるからな。つねに、もし、という事態に備えておかんといかん。キリマンジャロだけに。
助手:
え? なるほど。キリマンジャロだけに、モシが起点ということで・・・・。お後がよろしいようで。

 













コメント

このブログの人気の投稿

医療落語「博士と助手」オリジナル

南海トラフ地震 関連情報

著書:想像を超えた難事の日々(増刷)