続・マラリアの話
2010年2月
助手: | 博士、マラリアはまだ撲滅出来る状況にないのでしょうか? |
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博士: | WHOも当初は、天然痘で成功したように、マラリアの撲滅が出来ると考え、それを目指していた。しかし、最近は撲滅という考えではなく、アフリカでは出来るだけ減らすということに方向変換している。 |
助手: | 実際に撲滅された地域もあるようですが、アフリカはどんな状況でしょうか? |
博士: | WHO World Report 2009によると、マラリアの世界での感染者数は年890億人、死亡者は90万人じゃが、感染者数の89%、死亡者数の85%をアフリカが占めている。 |
助手: | やはり、アフリカが問題なのですね。 |
博士: | 遅ればせではあるが、2003年より患者を減らす3つの作戦が開始された一部の国では、大きな成果があがっている。 |
助手: | 具体的な成果があがった国というのは、どこですか? |
博士: | エルトリア、サオトメ・プリンセス、ザンビア、ザンジバルじゃ。 |
助手: | ザンジバル、って、単独の国ではありませんが、いずれも小さな国が多いようですね。 |
博士: | うむ。タンザニアにおいては内陸に続く本土でのコントロールは難しいが、島であるザンジバルでは功を奏した。 |
助手: | 具体的な3つの作戦というのは何ですか? やはり以前紹介した蚊帳ですか? |
博士: | 殺虫剤浸透蚊帳もしかり、後2つは、殺虫剤による蚊の駆除、ACT剤の使用の推進じゃ。 |
助手: | ムヒンビリ病院って、タンザニア最大の国立病院ですから、医者の数は多く、足りていると思っていました。どんな指導で来ているのですか? |
博士: | 白内障の手術指導で日本から来ている医師団のチームがいる。 |
助手: | 白内障、って目が白く濁る病気ですよね。タンザニアでも多いのですか? |
博士: | タンザニアにおける主な眼科疾患は白内障、トラコーマ、緑内障、糖尿病性網膜症などじゃが、失明原因の第一は白内障であり、約60%を占めている。白内障の治療は手術なんじゃが、その肝心な眼科医は、タンザニア全体で30人程度しかいない、という現状がある。数も少ないが、技術的にも遅れている。 |
助手: | 国全体で30人ですか。 |
博士: | ミャンマーなどで支援実績のある、堀尾直市医師(朝日大学付属村上記念病院眼科教授)や山崎俊医師(山崎眼科院長)などが中心となった「タンザニア眼科支援チーム」※は、2007年からムヒンビリ病院で最新式の白内障手術の技術指導を開始した。昨年の9月までに、5回の支援活動をおこなっている。 |
助手: | すでに5回も来ているのですね。 |
博士: | うむ。機材を援助する場合でも、それがしっかり根づいて使用されているか、技術協力する場合でも、現地の人がしっかり技術を習得し、それをさらに現地で広げていけるか、という点を確認することが問題になる。 |
助手: | 支援においては継続性が大事だということですね。 |
博士: | その通りじゃ。継続性、持続性が問われている。途上国では気長に成果を待つ必要がある。先日も文部科学省の支援を受けた事業で、持続発展教育※についてのワークショップが三重大学とムヒンビリ大学の共催で行われたところじゃ。 |
助手: | 持続性がテーマになっているワークショップだったのですね。具体的にはどんな内容でしょうか? |
博士: | 一般に途上国の医学部では地域基盤型医学教育が行われている。この教育に、持続発展教育(ESD)という理念、これはもともと日本の発案でユネスコが推進している事業なんじゃが、このESDを推進させるための手引書を作成しようという試みじゃ。 |
助手: | なんだかむずかしそうですが、三重大学の先生たちは、それをタンザニアで始めたのですね。 |
博士: | うむ。ムヒンビリ大学で行われたワークショップにはタンザニアの3大学から医療者、教育者、学生など多数が参加した。最終日には自分たちで課題をまとめるまでになり、成功を収めたと聞いている。他、タイからも参加者が来ていて、現地での経験などが報告されていた。 |
助手: | タイからどんな報告があったのですか? |
博士: | 興味深かった発表で、タイの村落の病院に赴任した医師夫婦の話があった。当初その病院では患者が殺到し、医師たちは寝る間もなく、早期に消耗してしまった。それを、どのように解決したかという発表じゃ。 |
助手: | それって、タイの話ですか? なんか、日本の話のようにも思えますが。それで、具体的にどのように解決したのですか? |
博士: | タイの医師夫婦は、地元のリソースを最大限に使うことを提案、住民に教育していった。具体的には、地域の伝統医療や伝統薬治療師と連携し治療を分担、真に病院で西洋医学的処置が必要な場合の選別を行った。他、住民の生活もつぶさに見てまわり、農業支援を通じた食料・栄養指導なども行った。この結果、病院を受診する患者数は3分の1まで減ったとのことじゃ。 |
助手: | 医療を地域ぐるみで考えて、改善していくことが必要なんですね。 |
博士: | そうじゃ。君に言われるまでもなく、タンザニアのみならず日本も学ばなければならない内容の発表じゃった。 |
助手: | 日本も不況の中、外国への支援に余裕がなくなっているかもしれませんが、間接的に日本の益になることもあるんですね。 |
博士: | うむ。ハイチの地震でもそうだが、こうした援助、支援は必要じゃ。それは、我々は既に世界と無関係に生きてはいけない存在じゃからじゃ。「情けは人のためならず」、巡り巡って自分のためになる、ということじゃ。 |
助手: | そのことわざって、そういう意味だったんですか。情けをかけることはその人の自立を妨げるのでよくない、という意味かと思っていました。それで、私は路上で手を出してくる乞食達にお金をあげないようにしていたんですが。 |
博士: | 安易に稼げる職業として乞食を行っている人も中にはいると聞いている。子供や若くて働けそうな人に、安易なほどこしをすることは確かに問題じゃ。国際支援についても同じであり、現地の自立が促され、持続的なものになるようにすることが肝心じゃ。 |
助手: | 私も早く自立できるように、博士、ご支援お願いします。 |
博士: | 君の場合は、もう10年以上にわたって支援しているんじゃが、自立にはまだまだ遠そうじゃ。引き続き支援するか、思案のしどころじゃな。支援の話だけに・・ |
助手: | でも、情けは助手のためならず、巡り巡って博士のためにもなりますので、継続、よろしくお願いします。 |
博士: | わしに巡ってくるのは、いつになるのやら。しかし、発展途上者への支援には、早急な結果を求めてはいかんから、気長に待つとするか。国際支援の皆様も、その辺、よろしくお願いします。 |
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