健康診断の話
1998年9月
助手: | 博士、とりあえず独立記念日も無事に済み、今のところは平穏ですね。 |
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博士: | うむ。中華系の人々の間では、いろいろな噂が広まっていたようじゃが、今のところ特に大きな騒動は起きていないな。 |
助手: | 邦人もかなりの数がインドネシアに戻ってきたようですね。 |
博士: | ジャカルタ日本人学校も2学期が始まって、4分の3程度の生徒数に復帰したと聞いておる。 |
助手: | ご婦人の姿が日本食スーパーやショッピングセンターなどでも目立つようになりましたね。 |
博士: | うむ。日本で英気を養ったと見えて、皆生き生きとしておるようじゃな。 |
助手: | それに引き替え、ご主人達は、何故か疲れたような顔をしていたりして・・・ |
博士: | そんな事は無いと思うが、いずれにしてもこういう途上国に赴任している場合には、年に1度位は日本に戻るのも良いな。 |
助手: | 気分転換になりますよね。 |
博士: | 精神的のみならず、肉体的にも日本で健康診断を受けてくる事ができるからな。 |
助手: | たいていの企業も、赴任前と年に1度の健康診断を受ける事を薦めていますよね。 |
博士: | 義務づけられていると、考えるべきじゃ。もちろん日本に行く時間や余裕が無ければ当地で健診を受けても構わん。いずれにしても、赴任前の検診と年に一度の健康診断は夫人も含めて必ず受けなければならんぞ。 |
助手: | 博士、赴任前の検診という時のけんしんと健康診断の健診とは字が違いますね。 |
博士: | うむ。ごっちゃにされておるが、検診というのは病気を見つける事が目的、健診とは健康を確認する事が目的と言う事ができる。 |
助手: | つまり赴任前の検診は、病気がないかを確認するために行う、という事ですか? |
博士: | そうじゃ。赴任前に十分な検査を行い、任地への派遣が可能か、可能だとしてもどのような事に気をつければ良いかを企業が見極めるために行うものじゃ。 |
助手: | そうなんですか。それじゃ、赴任前検診の結果が赴任後に現地に送られて来ては遅いんですね。 |
博士: | どこの企業じゃ、そんな悠長な事をやっておるのは。赴任前検診は結果までしっかり見極め、再検査が必要な場合にはそれも受けて、問題を解決してから赴任させなくてはならん。検診の結果、高血圧や糖尿病等の慢性疾患が見つかった場合には、治療方針を決め、ある程度コントロールしてから赴任させるべきじゃ。それが派遣する企業の務めじゃ。長期的に見れば企業の利益にも繋がる。 |
助手: | 当地で、病気の治療方針を決めたりコントロールする事は出来ないのですか? |
博士: | 完全にできないわけでは無い。しかし薬の種類や気軽に出来る検査の種類も限られており、きめ細かいケアは難しいと考えた方が良い。 |
助手: | 年に一度の健康診断の方はどうですか? 日本で受ける場合、時間が無くて結果まで聞いて来れないケースもあるようですが。 |
博士: | 確かに日本の病院も忙しいので、予約が先になり、数週間程度の休みで帰国した位では結果まで聞けない事もあるかもしれん。しかし、できれば休暇前に当地から連絡して予約を取り、結果を日本で聞いてから当地に戻るのが理想じゃ。 |
助手: | 数週間の休みでは結構難しいんですよね。いろいろと日本でやりたい事もありますしね。私の場合、健康診断は、当地で受ける事にします。どんな項目の検査を受ければ良いでしょうか? |
博士: | 慢性病を持っている場合は、それについての詳しい検査をする必要がある。持病のない場合には、ルーティンの検査を年齢に応じて受けるのが良い。 |
助手: | 胸のレントゲンとか血液検査ですか? |
博士: | うむ。胸部レントゲンは必須じゃ。当地では結核の早期発見という意味合いもある。被爆量もたいした事は無いから最低年1回は受けなさい。 |
助手: | わかりました。血液検査では、どんな項目を受けておけば良いですか? |
博士: | まず末梢血一般。これでわかるのは、貧血の有る無し、白血球の詳細を見る事により何らかの炎症があるかどうか、また白血病などが発見される事もある。また血小板数を見る事で肝障害やデング熱などの経過がわかる事もある。 |
助手: | デング熱では血小板が減るんでしたね。その他にはどんな項目が必要ですか? |
博士: | 血糖値やコレステロール、尿酸などの検査も生活習慣病の発見につながる。 |
助手: | 生活習慣病というのは、昔、成人病と言っていた病気ですね。 |
博士: | そうじゃ。生活習慣がその経過に関係する病気を指す。血圧や血糖値、コレステロールというのは、その値が高いからと言って、すぐ何らかの症状が出るわけではない。しかし、それを高いまま何年も放置すると、やっかいな糖尿病や動脈硬化性の病気、心臓病や脳動脈疾患に進展してしまう。症状が出る前に気づいて不適切な食事や生活を改善すれば進展を未然に防ぐ事ができる。不適切な状態で足をすくわれるのは、例の「関係」のみならず生活習慣についても言えるんじゃ。 |
助手: | 「不適切な関係」ね。それにしても、不適切って具体的には何を・・・ |
博士: | 君も、いろんな意味で不適切な状態を改善すべきじゃな。外食ばかりしていると栄養がかたよりコレステロールが上昇しやすいぞ。その他、検査しておくべき項目としては、血液では肝機能がある。 |
助手: | GTOとかGP何とか言う項目ですよね。 |
博士: | 車の種類じゃないんだから、それも言うならGOT、GPTじゃ。この2項目は肝炎等で上昇する。その他、γGTPもアルコール肝障害の指標になる。 |
助手: | 先月号の話じゃないですが、肝炎も当地では要注意でしたね。 |
博士: | うむ。また肝炎のワクチン接種が必要か、既に受けたワクチンの効果がどうかを調べるために、A型肝炎、B型肝炎の抗体も余裕があれば調べておいた方が良い。その他、血液ではナトリウム、カリウム、クロール、クレアチニン等といった項目も調べれば、腎機能等の目安になる。 |
助手: | 尿や便の検査もやはり必要ですか? |
博士: | うむ。尿の検査で、膀胱炎、腎機能、糖尿の状況などがわかる。また当地に住んでいる以上寄生虫疾患に罹患している可能性は日本よりは高いから、便寄生虫検査も必要だ。日本で便検査をするのは寄生虫を調べるためではなく、潜血、つまり便中の血液を調べて大腸癌を発見するためじゃがな。 |
助手: | 便の検査は日本とは意味合いが異なるという事ですか? |
博士: | そうだ。日本の検診は生活習慣病と癌の早期発見を目的としている。便の検査ばかりではない。胸部レントゲンをとるのは日本では肺ガンの早期発見のためという事になっているが、当地ではそれより結核等の感染症の発見のため、と考えた方が良い。 |
助手: | 当地に赴任している場合の検査は意味合いが異なるんですね。 |
博士: | まあ、もちろん当地で受ける場合でも、癌の早期発見という目的もある。しかし、技術的な問題もあり胃バリウム検査などは日本以外では受けない方が良い。日本でさえ最近は胃の検査に意味があるのかどうか疑問視されておるんじゃから、当地での検査は日本でトレーニングを受けた技師が施行している一部の施設を除けば被爆量を考えるとリスクの方が大きい、と言える。大腸のバリウム検査もしかりじゃ。 |
助手: | そういう検査は、日本の方が技術が上という事ですね。 |
博士: | はるかにな。血液検査や尿、便の検査は精度の面で日本と大差は無いがな。 |
助手: | じゃあ、結果も信頼して良いんですね。 |
博士: | おおむねな。しかし検査機器のメインテナンスが悪かったり、試薬を古いまま使ったりしている可能性もあるから、異常値が出た場合には、再検査が必要な事もある。 |
助手: | 機械で調べていても間違う事があるんですか? |
博士: | そりゃそうじゃ。日本であれば、特に異常な値が出た場合には、検査技師が変に思い再検査する事も多いから間違いは少なくなるが、当地では、何の疑問も無くとんでもない値をそのまま結果として出してくるケースもある。要注意じゃ。 |
助手: | 怖いですね。医療の場面ではティダ・アパ・アパは止めてもらいたいですね。 |
博士: | まあ、当地は医師にも問題はあるが、レベルが低いのはむしろパラ・メディカルの方だからな。 |
助手: | パラ・メディカルと言うのは? |
博士: | 看護婦、検査技師、放射線技師、薬剤師といった医療スタッフの事じゃ。 |
助手: | そうですか。博士、そう言えば使用人を雇う時にも検診をした方が良いですよね。 |
博士: | そうじゃった、大事な話を忘れるところじゃった。使用人検診は重要じゃ。結核等の感染症のある無し位は最低限チェックしてから採用した方が良い。年に1度の健診も必要じゃ。一通りやって20-30万ルピア位じゃ。 |
助手: | 小さいお子さんがいる家では、特に気になるところですよね。 |
博士: | その通りじゃ。いやー、今回は君に助けられたな。そうか、なるほど健診の話だけに、敵に塩を送られた格好になったな。 |
助手: | 健診と上杉謙信をかけたんですね。今回は重厚なしゃれで閉めましたね。・・・それにしても、不適切な関係って、どういう関係ですかね。気になるなー。 |
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