痔の話

1999年11月


助手:博士、いきなりですが痔の人は多いんですか?
博士:うむ。和式トイレのためか、特に日本人には多い。成人の半数は経験があるとも言われている。
助手:日本式トイレはしゃがみますしね。その点はインドネシアでも同じですね。
博士:うむ。じゃが、インドネシアでは紙は使わん。水できれいにするから、日本人よりは頻度が低いかもしれん。
助手:そうですね。水をつけて指で洗うわけですから、痔には良いかもしれませんね。
博士:日本でも痔の手術をした人には、手術後にはウォシュレットを使うように指導している。
助手:一口に痔といっても、いろいろと種類があるんですよね。
博士:そうじゃ。まず多いのが痔核じゃ。痔核というのは、肛門静脈叢の静脈瘤様変化を差している。
助手:難しいですね。こうもんじょうみゃくそう、ですか?
博士:うむ。そもそも人が直立して歩くようになってから問題となってきたんじゃが、直腸、肛門の部分には静脈が集まっている。これを叢と呼んでいる。そして、これが直立歩行によりうっ血しやすい状態になっていて、さらに排便時の怒積により膨らんで、こぶ状になった状態を静脈瘤と呼んでいる。
助手:どせき、ね。火山の噴火の時でも問題になりましたよね。
博士:それは、土石流じゃろ。怒積というのは、いきばる事じゃ。
助手:いきばる事ですか。そうすると、便秘は良くないわけですね。
博士:うむ。そうじゃな。便秘が一番の大敵じゃ。
助手:痔核は、手術しなければ治らないんですか?
博士:進行の程度による。排便後の一過性の疼痛、出血程度で瘤が常に脱出した状態でなければ、保存的に薬などで済む。しかし、常に痛くて歩けないとか、出血がひどい場合には、手術の適応になる。
助手:手術はたいへんですか?
博士:これも程度によるが、局所麻酔で行えるし、慣れた施設で行えばどうという事はない。10分程度で終わる。手術後も1週間もあれば、職場復帰できる。
助手:そうですか。博士、切れ痔というのも痔核ですか?
博士:普通、切れ痔と呼ばれているのは専門的には、裂肛と言う。
助手:肛門が裂ける、って書くんですね。
博士:そうじゃ。便が固くなり、排便の時に小さな裂創、切り傷を生じる。出血や痛みがあるため、ますます排便が困難となり便秘してしまう。乳幼児でも生じる。
助手:治療はどうするんですか?
博士:便が固い事により生じるから、まずは便を柔らかくすること。食事に注意する事や、緩下剤を使う。そして、抗生物質軟膏などの処置を行う。手術しなければいけない症例はまれじゃ。
助手:まずは、便通ですね。
博士:うむ。そして、痔の中でやっかいなものに、じろう、がある。
助手:”飛びます、飛びます”、って?
博士:それは、坂上二郎だろう。そうじゃなくて、
助手:ああ、♪戦争を知らずに、僕らは生まれた♪
博士:それは、杉田二郎だろう。
助手:あ、わかりました。「白い巨塔」、古いところでは、「兵隊やくざ」、とか。
博士:それは、田宮二郎じゃ。しかし、よく「兵隊やくざ」、なんて古い映画知っとったな。
助手:マニアなものですから。
博士:わしの言ってるのは、痔瘻。痔に瘻孔と書く。
助手:難しいですね。ろうこう、っていうのは何ですか? 水戸のご老公じゃないですよね。黄門様の話だけに。
博士:全然違う。瘻孔とは道の事じゃ。具体的には、肛門にある陰窩の感染が引き金になる。
助手:知らなかったな。肛門にもインカ帝国があったんですね。
博士:帝国じゃない。分泌腺なんじゃが、肛門陰窩と呼ばれている。そこに細菌が侵入して膿瘍を形成し、その膿瘍が自潰して瘻孔、すなわち道が残り、その道が肛門周囲の皮膚に開口した状態を痔瘻と呼んでいる。
助手:なんか、やっかいですね。
博士:うむ。治療もやっかいでな。手術しかないんじゃ。瘻孔全体をきっちり取りきる必要がある。痔核の手術よりは、かなり難しい。再発もしやすい。
助手:たかが痔といっても、そうなるとたいへんですね。
博士:また、膿瘍の段階でも結構痛む。その場合には、まず膿瘍を切開して膿を出してやる必要がある。この状態は、肛囲膿瘍と呼ばれている。
助手:濃いのよ? うすいのよ、もあるんですか?
博士:コーヒーじゃないんだから、濃いのも薄いのもない。肛囲膿瘍じゃ。肛門周囲膿瘍の略じゃ。
助手:まあ、なんだか兎に角、痔の病気は、言葉も難しくていやですね。
博士:しかし、多い病気じゃからな。
助手:診てもらうのも恥ずかしいですからね。
博士:医者の前で恥ずかしがってどうする。恥ずかしがられたら医者の方だってやりにくい。まともな医者なら、直腸指診は健康診断でも行う診察行為じゃ。
助手:直腸指診て、あの指をつっこまれるやつですね。いやなんですよね。気持ち悪いし、それでいて何だか気持ち良いし。
博士:なんだ、危ないな、君は。兎に角、直腸指診というのは、痔のみならず、直腸のポリープや癌を見つける近道じゃから、なるべくしてもらいなさい。大腸癌のかなりのパーセンテージは肛門から指で届く範囲に発生するんじゃぞ。
助手:わかりました。今度からいやがらず、してもらいます。
博士:排便時の痛み、出血。便の表面に付着するタイプ、あるいはシャーっと便器に散るようなタイプの新鮮血による出血は痔の可能性が高い。もちろん、腫瘍の事もあるから、放っておかないで医者に診てもらう必要がある。早いうちなら、痔も薬で直ぐに治る。まずは、快食快便が重要じゃがな。
助手:外科の女医さんていないですかね。
博士:少ないな。それに、よけい恥ずかしいじゃろ。
助手:そうですね。間違って前を見せたりしてね。前じゃありません。後ろ向いてくださいなんて言われたら、恥ずかしいですね。
博士:もう。聞いてる方が恥ずかしいわ。もうちょっと、大人としての・・・
助手:自覚を持ちなさい。痔核は持たなくていいけど、ですね。
博士:なるほど。今回は、下の話だけに落ちるのが早かったな。

 


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