2008年11月
助手: | 博士、タンザニアで一番注意しなければいけない病気は何でしょう? |
---|---|
博士: | まずはマラリアじゃ。 |
助手: | やはりそうですか。いつが一番危険なのですか? |
博士: | WHOによればタンザニアは全土で通年マラリアの危険地帯という分類になっている。気候によっては違いがあるが、ダルエスサラムの場合には大雨期後の4月から6月が一番発生が多い。 |
助手: | マラリアは蚊が媒介するんですよね。 |
博士: | そうじゃ。ハマダラカ属の蚊(Anopheles)に吸血されることにより感染する。 |
助手: | アノフェレスですか? 蚊に特徴はありますか。 |
博士: | ハマダラカは、羽に白黒の斑紋を持つことと、物にとまるとき(吸血の際)尻を上げて斜めに釘を刺したような姿勢に見えることが特徴とされている。 Anopheles Gambiae |
助手: | わーっ。見ているだけれ痒くなりました。これがにっくき敵の正体ですね。 同じ場所にいても、いつも私だけ他に人に比べて刺されやすいのですが、血液型かなんかに関係していますか? |
博士: | 血液型との関係は不明じゃが、蚊は二酸化炭素の濃度の濃いところ、温度の高いところに向かう習性がある。新陳代謝の高い人、汗っかきの人、運動後、ビールを飲んだ後に刺されやすいという傾向はあるようじゃ。さらに熱を吸収する黒い服に集まる傾向も知られている。 |
助手: | それじゃ、ゴルフ後のビールを飲んでいる色黒のおやじを蚊は刺す、ということですね。 |
博士: | 日焼けの色黒はしかたがないが、服は確かに白や黄色など明るいものが良いな。加えて厚手のもの、皮膚と服の生地がぴったりつかないようにだぶっとしたもの。蚊の出る時間帯、特に夕方、明け方などは長袖、長ズボンをすすめる。肌の露出した部分には必ず虫除けスプレーやクリームを塗る。スポーツをした後は汗をかいた状態にしないで、しっかりシャワーを浴びる、清潔にしておくことも重要じゃ。 |
助手: | 予防薬を飲んでいるという人もいるようですね。 |
博士: | うむ。実際アメリカ大使館などではタンザニアへの赴任者にマラリア予防薬を服用するように勧めている。予防薬を飲んで、更に防蚊対策を徹底するという方針をとっている。 |
助手: | 予防薬を飲んでいればマラリアにかからないのですか? |
博士: | そうとも言えんから、アメリカ大使館でも防蚊対策が強調されている。また薬が合わない、副作用などのこともあり、実際に飲んでいる館員は半数程度ではないかとの予測もある。 |
助手: | どんな副作用ですか? |
博士: | 服用する予防薬(ドキシサイクリン、メフロキン、マラロン)によってそれぞれじゃが、胃腸症状が多い。胃が気持ち悪い、吐き気など、服用するとドーンとお腹に響く感じがすると言っている体験者も多い。メフロキンの場合には、神経症状、不眠などが出ることもある。 |
助手: | 副作用に耐えてがんばって服用していても完全ではないんだとしたら、飲みたくないですね。 |
博士: | 一般に胃腸の弱い日本人は、確かにそういう考えの人も多い。マラリアになった時にしっかり治療すれば良いという考えもある。 |
助手: | 治療法は確立されているんですよね。ダルエスサラムでも大丈夫なんですよね。 |
博士: | 当地のマラリアは熱帯熱型で、脳マラリアなど合併症もあり、重傷になると怖い。治療が遅れれば命にかかわる。確かに当地でもマラリアの治療は確立されており、早めに医療機関を受診すれば命の心配はいらない。しかし、経験者によると治療薬の副作用もきつく、吐き気が1週間以上続いたので、もう2度とかかりたくないといっていた。また、当地では過剰診断、マラリアでないのにマラリアと診断されるケースが多いので注意が必要じゃ。 |
助手: | 予防薬を服用して備えるか、なった時に治療するか、悩ましいところですね。どちらもたいへんそうですし。 |
博士: | うむ。日本の場合は、短期出張者、さらに地方への出張者で発熱などの症状発現後2日以内に病院を受診できない場合に、予防薬を勧めている。長期滞在者の場合には、副作用のこともあり、まずは防蚊対策ということにしているようじゃ。 |
助手: | 薬ですが、今はクロロキンは使っていないのですね。 |
博士: | うむ。当地ではクロロキン耐性、即ちクロロキンが効かないマラリアがほとんどじゃ。予防薬としても治療薬としても意味がない。ここ数年治療薬としては青蒿素(チンハオス)関連製剤が主体となっている。 |
助手: | チンハオスーって、麻雀の役みたいですね。 |
博士: | 中国では1000年以上前からヨモギ科 の植物は熱病や皮膚病の治療薬として使われていたが、1960年代にマラリア治療薬の調査が行われクソニンジン(中国名:青蒿素、学名Artemisia annua)の葉からアーテミシニンが誘導された。アーテミシニンからアーテメターやアーテスネートといった半合成の薬剤が開発され、薬剤耐性マラリアに有効であることがわかった。 クソニンジン → |
助手: | クソニンジンですか!! 名前もすごいけど、今話題の中国製ですが、大丈夫なんでしょうか? |
博士: | 中国の医学雑誌に発表される1980年代までは世界的には全く知られていなかった。また中国発ということもあり確かに当初は懐疑的に受け取られていた。しかし、その後効果が認められ、今では、この誘導体なしではマラリアの治療はなりたたないと言ってよい。 |
助手: | ここでもチャイナフリーは不可能なわけですね。 |
博士: | 1972年に中国湖南省長沙市で発掘された馬王堆漢墓は、生きているかのごとき死体の発掘場所として有名じゃが、同時に多くの医学文献が発見されている。2100年以上前のこの文献にもこのチアンハオスについての記載があったと聞いている。 |
助手: | 知っています。全く腐乱していなかった夫人の遺体が見つかったんですよね。ミイラのみならず現代でも通用する医学文献が一緒に眠っていたんですか。いやはや、おそるべき中国ですね。 |
博士: | マラリアの治療にもどるが、このアーテミシニンから開発された各種合剤は効果の持続が短いという欠点があるため、現在は他の薬剤との混合治療が基本となっている。代表的な薬剤としてアーテメータとルメファントリンの合剤であるコアーテム(Coartem、Riamet)などがある。 |
助手: | この手の薬はタンザニアでも手に入るのですね。 |
博士: | うむ。その点は心配ない。安心してマラリアになるように。 |
助手: | わかりました、安心してマラリアになります、って、そんな訳ないでしょ。 |
博士: | まあ、君の場合は、汗をかいたままシャワーもせずにビールを飲んで、黒いお腹を出して蚊帳にも入らず寝てしまうことの方が、問題じゃな。 |
助手: | 博士、お見通しでしたね。でもお腹は日焼けしていないはずなんですが。はあ、なるほど腹黒いという意味で…、って。 |
コメント
コメントを投稿