ブタインフルエンザの話

2009年5月

助手:鳥の間違いじゃないんですよね。豚のインフルエンザがメキシコで発生という話ですね。
博士:過去、鳥インフルエンザウイルスが変異して人のインフルエンザになったことが判明したことから、鳥ばかりが注目されていたが、豚は鳥、人、両方のインフルエンザに感染する動物として知られていた。他には、馬もいる。
助手:そうなんですか。なんか言い訳じみた感じがしますが。
博士:おほん、医務官の講演会でも一応、鳥インフルエンザウイルスと人インフルエンザウイルスが遺伝子再集合を起こす場としての豚には注目していたようだが、豚自体のインフルエンザには、そんなに注目していなかったことは事実じゃ。
助手:それで、今回の米国、メキシコの事例で驚いたわけですね。
博士:うむ。過去ブタインフルエンザ、Swine Influenzaが人に感染した例として、1976年と1988年の米国での小規模流行を挙げることができる。
助手:今回初めてという訳ではないんですね。その時はどんな感じだったのですか?
博士:

1976年2月の米国ニュージャージー州での流行では、近隣のディックス基地で兵士が豚インフルエンザで死亡した。また、他多数の兵士から豚インフルエンザA(H1N1) が検出された。

助手:A型でH1N1というと今回のメキシコや米国のケースと同じですね。
博士:

そうじゃ。スペイン風邪とも同じH1N1じゃ。このため、5000万人が世界中で亡くなったと言われている1918年のスペイン風邪の再来かと大問題になった。これを受け、時のフォード政権は国家対策として、1976年10月からブタインフルエンザワクチンの人への接種を開始し、12月までに約4000万人に施行した。

助手:

2月に発生して、その年の12月までに4000万人にワクチン接種というのは、当時としてはすばやい対応でしたね。

博士:うむ。しかし、結果として新型ウイルスによるパンデミックには発展しなかった。残されたのは、ワクチンの副作用による500名以上のギランバレー症候群患者の発生で、訴訟が山積みとなった。ワクチン接種も12月には中止せざるを得なかった。
助手:えー、それは残念でしたね。ギランバレー症候群って、どんな病気ですか?
博士:免疫システムの異常により運動神経に障害が生じ、手足に力が無くなる病気じゃ。風邪などの感染の後に発生し、通常の場合は数週間で軽快することが多いが、重症の場合には呼吸器不全をおこすこともある。
助手:インフルエンザワクチンの接種後に発生することもあるのですか?
博士:うむ。まれじゃが、接種後数日から数週間後に発生することがある。1976年のケースでは死亡者も出て、接種が原因であるとされた。
助手:そんな事聞くとワクチン受けたくなくなりますね。
博士:リスクとベネフィットの兼ね合いということになる。そのケースは実際にパンデミックが発生する前に、プレパンデミックワクチンを4000万人に接種した結果と言える。封じ込めには成功したとの考えもあるが、この経験から米国、ヨーロッパではパンデミック発生前のプレパンデミックワクチンについては、備蓄は積極的に行うが、実際の接種には慎重にという考えが主流となっている。
助手:今日本で準備しているプレパンデミックワクチンはインドネシアや中国で流行した鳥インフルエンザウイルスH5N1から作成したものですよね。そうなると、今回のブタインフルエンザから発生したウイルスには全く効果がない、ということですね。
博士:その通りじゃ。H5N1については2年前よりその脅威度は低下したと分析されており、他のタイプにも同様な注意が必要だとの議論がされていた。
助手:博士、今、この時点で一般の我々が注意することは何ですか?
博士:メキシコで新型インフルエンザ、パンデミックインフルエンザが発生したとしても、それがすぐにスペイン風邪のような事態につながるわけではない。その罹患率、致死率、治療の効果などを十分に見極める必要がある。今回、米国では軽症例が多いのに、メキシコではどうしてそんなに多くの死者が出たかなど謎も多い。この辺を十分に見極めて判断する必要がある。
助手:いたずらに騒ぐ、慌てる必要はない、ということですね。専門家の分析を待つ。それじゃ、でもいったい私は何を?
博士:鳥から発生したとしても豚から発生したとしても、それが人のインフルエンザであることに変わりはない。ワクチンが準備出来ていないという点の違いはあるが、通常の対策を行うということが重要じゃ。
助手:

手洗いとか、咳エチケットとか、ということですか? そんなんで良いのですか? 

博士:
それが中心じゃ。個人防衛、社会防衛の意識の徹底が肝心じゃ。医療事情の悪い途上国などでは、タミフル・マスクなどを含めた医薬品や生活物資の準備は必要じゃろう。そして、何より正確な情報を得るようにしてデマなどに惑わされないことが肝心じゃ。
助手:
いやー、それにしても、豚からというのは驚きましたね。まさに、瓢箪から豚、豚に真実、って感じでしたね。
博士:
瓢箪から駒じゃ。瓢箪の中から豚が出てくれば確かに驚くが・・・。しゃれにしても後半のことわざは使い方が間違っている。こんな話をしても、君の場合は、豚に真珠じゃ、と使うのが正しい使い方じゃ。
助手:
って言うか、豚に小判でした。
博士:
それも言うなら猫じゃ。君にはいくら言い聞かしても効果がない、まさに・・
助手:
豚の耳に念仏ですか?
博士:それも馬じゃ。確かに豚に念仏を聞かしても意味ないじゃろうが・・。豚をつければいいってもんじゃない。知ってることわざを全て並べているんじゃろうが、無知なことは、ばれてるぞ。
助手:
いやー、すっかり豚脚をあらわしてしまいました。
博士:
これも馬、馬脚じゃ。豚の足では短くて見えないだろ。もういいかげん豚から離れなさい。鳥だろうが、豚だろうが、メキシコのケースでは既に人のインフルエンザとなっているんじゃ。いいかげんに終わりにしなさい。
助手:
そうですね。まじめな話、今回の話については、真剣に情報に気を配っておく必要がありそうですね。
博士:
お、やっとまともになったな。最後尾はくるっと丸くおさまったな。
助手:
豚の話だけにね。
 

参考:外務省海外安全情報 http://www.anzen.mofa.go.jp/








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