性の話
1999年2月
助手: | 博士、昨年話題になった薬にバイアグラというのがありましたね。 |
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博士: | うむ。昨年厚生省でも認可されたから日本で発売されるのも間近じゃろう。その他にも、西欧では同種の薬がいろいろと開発されておるようじゃな。 |
助手: | バイアグラに関しては日本で認可されるのが随分早かったですね。それだけ需要が多いという事ですかね。 |
博士: | 外国で使用されている薬剤が日本で認可されるには、治験を行う必要があり従来は数年間かかる事もあった。しかし昨年から国内での治験を省略できるようになり認可までの時間が短縮された。需要が多いという事もあるが、抗エイズ薬のように有効な事がわかっているのに日本では症例が少なくて治験が進まず、日本の患者に投与するまで時間がかかる、という弊害を少なくするために手続きが簡略化されたんじゃ。 |
助手: | 認可される前は、個人輸入での購入がかなり行われていて大問題になりましたね。 |
博士: | うむ。ネット上で高額で取引されておったようじゃし、そもそも医師の判断で処方されているわけではないから、副作用による被害も大きかった。 |
助手: | 日本でも死亡者が出ましたね。 |
博士: | うむ。高血圧の人が、降圧剤と併用したために血圧が下がりすぎて死亡した例があった。 |
助手: | 死ぬ、死ぬと言っていて、本当に死んでしまってはしゃれになりませんよね。 |
博士: | その発言、ピ--じゃぞ。まあ、その通りじゃが。 |
助手: | そもそも、どういうメカニズムで立つ、勃起、するんですか? |
博士: | 勃起のメカニズムには段階がある。まず、大脳の性中枢がさまざまな刺激により興奮し、これが脊髄、骨盤神経、骨盤神経叢、陰茎海綿体神経へと伝達される。 |
助手: | やっと陰茎まで来ましたね。 |
博士: | そして陰茎海綿体神経の終末から一酸化窒素が放出される。この一酸化窒素は海綿体平滑筋にあるGTPをサイクリックGMPに変え、このサイクリックGMPが海綿体の平滑筋を弛緩させ、これにより海綿体に血液が流入し勃起が完成する。 |
助手: | 武田鉄矢のグループですね。 |
博士: | ?? それは、海援隊じゃろ。わしの言っておるのは海綿体じゃ。 |
助手: | わかってます。少し説明が長かったんでボケてみたんです。それにしてもずいぶんと長い経路が必要なんですね。 |
博士: | うむ。そしてバイアグラはサイクリックGMPを分解する酵素の分解を阻害する事によりサイクリックGMPを増加させる。これにより勃起を助けるというわけじゃ。 |
助手: | そー-ですか。分解する酵素の分解を阻害ですか・・。なんだかそのメカニズムを考えているだけでしぼんでしまいそうですけどね。 |
博士: | まあ単純に勃起といっても複雑じゃ。さらに大脳性中枢の興奮はストレスにより抑制される。つまりメンタルな面も大いに関係している。男性の性というのも意外と繊細なものじゃな。 |
助手: | そうですよね。私なんかもストレスが多くてなかなかうまくいかない・・・という事はあまりありませんけどね。 |
博士: | 君は無さそうだな。それにその若さでは、そういった薬も必要ないじゃろう。 |
助手: | ええ、私自身もちょっとチョバしてみたい気もありますが、実は悩んでいる知り合いに探してくれと言われているんですよ。インドネシアでも手に入りますか? |
博士: | 正式には認可されておらん。闇で売っているかどうかは知らん。じゃが、そんな安易に試すようなものではない。手に入ったとしても他人に渡して副作用で死亡でもしたらどうするんじゃ。責任問題じゃぞ。 |
助手: | そうですね。死んでも良いからと言われても、本当に死んじゃ困りますよね。 |
博士: | 死なないまでも副作用として頭痛、顔面紅潮、消化不良、鼻づまり、尿路感染、青視症(せいししょう)、下痢、めまいなどもよく起こる事が知られている。 |
助手: | 副作用も少なくないですね。でもその、せいししょう、て何ですか? 精子使用、ですか? |
博士: | そうではない。視覚障害の一種で物が青く見える現象じゃ。 |
助手: | へー、そうなんですか。よく、太陽が黄色く見えるなんていう話は聞いた事がありますが。あ、それは、事後の話でしたね。 |
博士: | おほん。まあ、いずれにしても性で悩んでいる人は少なくないようじゃ。そう言えば性同一性障害という病気も昨年話題になった。 |
助手: | 名字が同じで間違いやすい、という病気でしたっけ? 話題になりました? |
博士: | それは姓の同一じゃろ。性、日本国内で性転換の手術が行なわれたのを覚えておらんか? |
助手: | ああ、思い出しました。女性がおチンチンをつけてもらったんですよね。 |
博士: | 日本では君のように、まだまだ誤解している人が多いんじゃが、オランダなどの統計によれば、1万人に1-3人ぐらいの割合で患者さんがいると言われている。 |
助手: | そうすると日本にも数万人、という事ですか? けっこう多いですね。そもそも、どういう病気なんですか、性同一性障害って? |
博士: | 性別というのは、通常肉体的性別だけを考えがちじゃが、これは性染色体Yの有無により決定するところの性、sexじゃ。 |
助手: | そうですよね。XYなら男、XXなら女性という事でしたよね。 |
博士: | うむ。じゃが、もう一つ、精神的・心理的性別、性意識、genderというものが存在する。sexとgenderの違いは、"Sex is between the legs. Gender is between the ears." という言葉で言い表せる。この病気の場合、sexとgenderが解離しておるんじゃ。 |
助手: | 性は股間の問題で、性意識は両耳の間、つまり脳の問題という事ですね。でも、どうしてそんな股間と脳が分離してしまうような事が起こるんですか? |
博士: | 発生の段階つまり胎児の段階で、染色体の指示により妊娠8週以降に睾丸が形成されるんじゃが、この睾丸から放出される男性ホルモンの作用により初めて脳は男性化し、男性ホルモンの作用がなければ脳は女性化すると考えられている。 |
助手: | そうすると何ですか? 産まれる前の段階で、睾丸の方が先に出来あがって脳は後から男性化するから、この間の時期に何か問題が起きると睾丸を持っているのに脳は女性という事にもなるという訳ですね。うーん、難しいですね。顔は女性的だから、睾丸の美少年、なんて冗談言ってられませんよね。 |
博士: | 紅顔ちがいじゃろ。いずれにしても妊娠中のストレス、あるいは最近話題の環境ホルモン等が原因となり、これが胎児の睾丸の働きを不十分にすると言われている。 |
助手: | そうですか。でも、体、性器は男性なのに心は女性、あるいはその反対という状態は考えてみるとさぞかしつらいでしょうね。朝起きてみたら股間にぶら下がっているものが無くなっていて胸が膨らんでいたと言うようなマンガのような状態ですものね。絶対受け入れられませんよね。でも・・・・、ちょっと面白いかな? |
博士: | 一時的ならな。しかし永久にじゃぞ。普通の人ならとても耐えられん。 |
助手: | それにしても自分が男か女かという認識は周囲、特に親から言われてそう思うようになるのかと思っていましたが、違うんですね。 |
博士: | 性の自己意識というのは、2才ぐらいまでには確立されると言われている。それ以後は、いくら周りが反対の性として育てようとしても変えられないと考えられている。教えたわけでもないのに、女と認識している女の子は女性らしい遊び、男と認識している男の子は男性らしい遊びをするようになるものじゃ。スカートをはかせて育てれば男の子でもおままごとをするようになるわけではない。 |
助手: | 博士、自分が女性だと認識している性同一性障害の男性は、セックスする相手も男性になるわけですよね。同性愛ですね。 |
博士: | 性同一性障害にもいろいろな段階がある。しかしいずれの場合でも、自分は女性と信じている者が男性と性交するんじゃから、それは立派な異性愛と言えるぞ。通常の同性愛者、ゲイの男性は自分を男性と認識し、自分の肉体、性器を大切にしているが、性同一性障害の男性は、自分を女性と認識しているので自分の肉体、性器を憎悪しており、できれば手術をして変えたいというところまで考えているケースもある。 |
助手: | ふーん、同性愛、ゲイ、性同一性障害、なんだかわかりにくいですが、まあ昨年日本で話題になったのは、そうした手術を日本でできるようになり、第一号の手術が行われたという事ですね。 |
博士: | うむ。男性と認識している女性の性転換手術が行われた。手術的に肉体を変えたいとまで望んでいる場合、これを性同一性障害の中で特に性転換症と呼んでいるが、その手術ができるようになったんじゃ。 |
助手: | 昔からオカマでモロッコだかどこだかに手術に行っている人はいましたよね。 |
博士: | うむ、外国では長い歴史がある。日本は昨年が初めてで、従来は特に自分を男性と認識している女性を受け入れてくれる場所がなかったから、今回の手術はこうした患者さんにとって朗報といえる。マスコミでも広く報道される事により、こうした問題で悩んでいるのは自分だけではないと思える事は、患者さんにとって大きな慰めになるし、世間がきちんと理解するための一歩になる。 |
助手: | それにしても、性というのは難しいですね。単純な男と女だけでも私にとっては複雑怪奇で難解な世界なのに、その中間に位置している人がいるんですからね。 |
博士: | 欧米や他の諸国に比べて日本はこの問題に関してはかなりの後進国じゃ。さらに、たとえ手術で外見の性は変えられても、すなわち本来の望む性に戻せたとしても、日本では戸籍までは変える事ができないので、本人にとっては大きな不利益をこうむる事には変わりはないし、世間の誤解や偏見は根強いものがある。 |
助手: | オカマとかニューハーフとか言ってテレビなんかで面白おかしく取り上げられていますが、本当はかなり深刻な問題なんですね。バイアグラの騒ぎにしても、いかに性の問題で悩んでいる人が多いかという事ですね。 |
博士: | そうじゃ。インドネシアでも日本でもこうした性の問題はタブーになっておるから、人知れずという例は多いはずじゃ。 |
助手: | そうか。博士も最近元気がないと思ったら、・・・そうなんですか。 |
博士: | いやー。この問題に関しては君が羨ましいよ。わしだって若い頃は、・・・ |
助手: | 薬使わなくてもバイアグライ、倍ぐらい元気だったとか? |
博士: | とんでもない。倍ぐらいどころか、3倍も4倍も元気で・・・ |
助手: | 私のしゃれも気が付かない位、問題が深刻なんですね。わかりました。今回は、私がじっくり博士のお悩みを聞いてあげる事にします。 |
博士: | 面目ない。すっかり前回と立場が逆転してしまったな。 |
助手: | そりゃそうですよ。この事に関しては、博士の立つ場、はありませんからね。 |
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