熱射病の話

1997年9月

助手:博士、暑さがだんだん厳しくなりましたね。
博士:そうだな。日中は35度を超えておるようじゃ。日本も今年は暑いらしいな。
助手:そうですね。ジャカルタでも昼間外に出ていると頭がふらふらしてきますよね。
博士:それは熱中症、厳密に言うと軽い熱疲労じゃな。
助手:熱中症ですか? 熱射病とは違うのですか?
博士:高温に長くさらされて脱水が進み、体温が上昇してくることにより発症する病気を熱中症と呼んでいる。よく混同されているが、熱射病(日射病)というのは熱中症の中で一番重症で、多くの臓器の障害が起こった状態をさしている。熱中症の中のひとつの病態として熱疲労がある。
助手:熱中症ね。具体的にはどんな症状が出るのですか?
博士:発汗、めまい、疲労、頭痛、吐き気、心拍数の増加などじゃ。熱けいれんを起こすタイプもある。
助手:ねつけいれん? 子供が熱を出した後けいれんするやつですか? 
博士:それは熱性けいれんじゃ。熱中症の場合は熱けいれんと言っておる。
助手:熱けいれんね。 これも、恐そーな名前ですね。
博士:意外に予後は良い。汗により喪失する塩分の補給がない場合、つまり多量の汗をかいた時に塩分の入っていない水だけを飲んでいると起きる。体のあちこちの筋肉がけいれんしてくる、結構痛い。じゃが、涼しい場所で寝かせて食塩を加えた水を飲ましてやれば回復する。通常、意識を消失することもない。
助手:発汗で水だけじゃなくて塩分も失われるんですね。
博士:そうじゃ。人は突然の高熱に見舞われると発汗により1リットルあたり4グラムの塩分が失われる。しかし、適応してくれば1リットルあたり1グラムまで汗の塩分は減る。さらに腎臓からの再吸収により尿中の塩分排泄量も減少する。
助手:1リットルあたり4グラムというのは、かなりしょっぱい汗ですね。でも慣れると失われる塩分が減るんですね。
博士:そうじゃ、いつまでもリットルあたり4グラムずつ失われていたんでは、直ぐに体中の塩分が無くなってしまう。熱けいれんは暑さに順応していない旅行者や赴任直後の人が起こしやすいと言えるな。
助手:なるほど、順応ですか。確かに日本人の場合、特に旅行者などはよく汗をかいていますけど、インドネシア人はほとんど汗をかいていないように見えますよね。彼らは完全に順応しているんですね。博士、そもそも、人は一日でどのくらいの汗をかくものなんですか?
博士:通常、人は1日あたり尿として1.5リットル、汗、便、呼気から1リットルの水分を喪失している。従って、汗だけなら数百ccといったところじゃ。しかし炎天下やボイラー内といった高熱の条件下で重労働を行った場合、1時間当たりの発汗量は1リットルを超える。
助手:すごい量ですね。それじゃ、炎天下でゴルフをしていたら1ラウンドで5リットルも水分が失われる事になりますね。
博士:そうじゃ。失われた水分と塩分を補わなければ熱中症になっても不思議はない。
助手:でも、つい汗をかくのがいやで水を飲まない事があるんですよね。
博士:汗をかくのをいやがって水を飲まずにがまんしていると、のどのかわきに続いて、尿が濃縮してきて量が減ってくる。これが脱水の初期症状じゃな。
助手:おしっこの回数が減り、色が濃くなったら、脱水なんですね。
博士:そうじゃ。これは塩分欠乏による熱けいれんの場合と異なり、水分欠乏による熱疲労と呼ばれる状態で、これが更に進むと細胞内の水分のみならず細胞外の水分も減ってきて血液の循環不全を起こす。脈が速くなり体温は上昇し、目がおちこみ脱水が顕著になる。疲労感が強くなり、判断力といった精神機能が低下してくる。最終的には、麻痺や昏睡にいたり放置すれば死亡する。
助手:恐いですよね。そうならないように水分摂取が大切なんですね。
博士:水分欠乏性の熱疲労になってしまったら、24時間以内に体温が下がり充分な尿量が得られるまで6ー8リットルの水を補う必要がある。まあ、この状態にまでならないようにすることが大事だがな。
助手:ゴルフやテニス等をする時は、のどがかわいたら早めに水を飲む事ですね。
博士:こういう熱帯では、のどが渇く前に飲む事が肝心じゃ。それと水は、塩分が入っているものが良い。自宅で作る場合には1リットルの水に塩1グラム、さらに砂糖も30グラム位入れておくと良い。
助手:砂糖は栄養のためですか?  
博士:カロリーではない。塩分を吸収させるためには糖が必要なんじゃ。もちろん市販されているスポーツドリンクがあれば一番良い。
助手:ビールでは代用できないですよね。
博士:もちろんじゃ。アルコール類はむしろ利尿を促進、つまり尿量を増やすから脱水が進んでしまう。水分補給にはならない。
助手:ゴルフを終わった後のビールをおいしく飲むために、水をがまんするなんていう人もいますけどね。
博士:そういう場合が一番危ない。それと、前の晩まで深酒していて睡眠不足のままゴルフ場に行くケース、これも前の晩からのアルコールによる脱水のため危険じゃ。
助手:二日酔いの方が、頭が痛くて動かせないからヘッドアップしなくて良いなんていう事もありますけどね。
博士:何をアホなことを言っとるんじゃ。脱水は血液が濃縮した状態じゃから血管が詰まりやすくなっている。すなわち心筋梗塞や脳梗塞の原因になるんじゃぞ。ヘッドアップしないで少しぐらいゴルフのストロークが縮まっても、病気のストロークになって命まで縮まったのでは元も子も無いぞ。
助手:博士、うまい洒落ですね。脳卒中も英語でストロークって言うんですよね。
博士:熱射病もHeat strokeと言うんじゃ。とにかく予防は水と塩分を補給して体温を上げないことじゃ。
助手:熱くならない事ですね。いきなり曲げて連続OBを出したから、キャディーがアホで距離感が悪くてはるかにオーバーしてしまったから、グリーンに乗ったはずのボールが思いのほか転がってバンカーに入ったから、グリーンの読みも悪くてOKに近い短いパットをはずしたから、3パットがひびいて次のティーショットをチョロしたからと言って熱くならない事ですね。とほほ。これじゃ、いつまでたっても私の悲願である100は切れませんよね。
博士:かーっと熱くなるのも100を切るまでじゃよ。それをクリアすれば冷静になれる。
助手:そりゃまた、どうしてですか? 
博士:だって言うじゃないか。暑さ寒さもひがんまで、とな。

 

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著書:想像を超えた難事の日々