血液型の話

1997年10月


助手:博士、先日親子間で血液型が合わない例が日本の新聞に出ていましたね。
博士:うむ。父親がO型、母親がB型で子供がA型という例じゃな。
助手:ええ。この組み合わせの夫婦からは、O型かB型の子供しかできないはずですね。
博士:そうじゃ。O型はOO、この母親のB型はBOじゃった。それぞれの半分づつが子供に組み合わされるわけじゃから、子供はOOかBOしかありえない。ところが、今回の報告例では遺伝子であるDNAを調べたところ、親子であることは間違いない。さらに良く調べると、子供のA遺伝子は母親のB遺伝子とO遺伝子が組み換わっためにできたA遺伝子のそっくりさんだったというわけじゃな。
助手:なんだか良く理解できませんが、それにしてもこの夫婦は、検査の結果がでるまでもめたでしょうね。こういう例はよく起こることなんですか?
博士:遺伝子の組み換わりそのものは少なくないが、遺伝的に証明されたのは初めての報告じゃな。
助手:そうですか。でもこれからは、子供の血液型が違う場合でも言いのがれをする事ができるようになりましたね。
博士:まあ、何を考えているかしらんが、確かに真実は母親のみ知るという場合もあるかもしれんな。男はそういう意味では悲しい存在じゃな。
助手:血液型には、その他にRhというのもありますよね。
博士:うむ。アカゲザルの赤血球に対する抗血清で強く凝集するヒト血球をRh陽性と呼び、ほとんど凝集しないのをRh陰性と呼んでいる。輸血後の副作用やRh陰性の女性がRh陽性の子供を妊娠した場合などに大きな問題となる。
助手:どの位の割合でRh陰性の人はいるんですか?
博士:Rh抗体そのものも40種類以上知られているが、臨床上重要なのはRh1因子であり、白人の場合、陰性者は15%位とされているが、日本人の場合Rh陰性者の割合は0.5 %とされておる。血液型別に言えば、A型RHマイナス:A(Rh-)の人は500人に一人、O(Rh-)の人は700人に一人、B(Rh-)の人は1000人に一人、AB(Rh-)の人は2000人に一人ということになる。
助手:2000人に一人と少ないんじゃ、輸血用の血液を探すのもたいへんですよね。
博士:うむ。日本の場合Rh陰性者は、自治体や赤十字にあらかじめ届けるように指導されている。いざという時のために血液センターが把握しておく事は重要じゃ。
助手:インドネシアはどんな状況ですか?
博士:Rh陰性の率については不明じゃが、インドネシア赤十字そのものは国中から血液を集めておるから、そういった珍しい血液型でもそこそこ数はそろっておるようじゃな。
助手:邦人の「とまとの会」ではどうでしょうか?
博士:それほどの数はいないようじゃ。
助手:そうすると、緊急時輸血が必要な場合にはこの国の人たちの血液を輸血せざるを得ないという事ですね。
博士:輸血を受ける前に感染症(梅毒、B型肝炎、C型肝炎、エイズ)のチェックを病院で確実にやってもらえれば、インドネシア人の血液であっても問題はないはずじゃ。
助手:輸血を受ける前に感染症のチェックをしてもらえる病院というのは具体的にどこですか?
博士:依頼すればやってもらえる所は、プルタミナ、メディストラ、アブディワリオ、MMC、セントカルロスなどじゃ。
助手:入院する際には、上記の病院にしておいた方が良いわけですね。博士、でも感染症はともかく、輸血の場合にはその他にも免疫反応が起こってショックになったりする事があると聞いていますが?
博士:確かに通常の免疫反応は血液の型が離れている非血縁者の方が危険性は高い。血液の型というのは赤血球のABO式のみならず、白血球のHLAなど多数存在する。血液の型全てが適合するという事は、骨髄移植の問題でもわかる通り非常に少ない。じゃが、一方で血液の型が近すぎるために起きる免疫の反応というのもある。
助手:え? それはつまり血縁が近い者からの輸血の方が起きやすい反応もあるという事ですか? それは初耳ですね。
博士:それ程頻度は多くない。また患者側の免疫力が落ちている状態での大量輸血の時等に起こりやすいとされているから、一般にはそれ程知られていないかもしれん。じゃが、移植片宿主反応(GVHD)と呼ばれているこの病気は、近年日本でも問題になっており、昨年だけで60例報告されている。治療法がほとんど無く、助かる例がほとんど無い。
助手:恐いですね。そんな病気もあるんですね。
博士:うむ。この病気の場合、血縁者間で起こる確立が高い。親子間や兄弟姉妹間、祖父母孫間での危険度が高いとされている。この病気に限って言えば、血縁者間の輸血はむしろ危ないとされている。
助手:どんな症状が出るんですか?
博士:輸血後10日後に発熱、12日後から紅班(赤い湿疹)が出現し、16日後には白血球が減少し、21日後にはほぼ全員が死亡すると言われている。
助手:治療法が無いとすると、予防ですか?
博士:輸血する血液に放射線を照射することによりほぼ完全に予防できる。日本では危険性が高いと判断された患者(免疫力が落ちている場合、高齢の男性、手術後の大量輸血、化学療法を受けている場合)に輸血をする場合に、血液に照射をするように薦められている。
助手:インドネシアでも輸血用血液に照射する事は可能ですか?
博士:インドネシアではできない。
助手:そうなんですか。・・・・他に予防する手段は無いのですか?
博士:このGVHDはドナーの白血球が患者を攻撃することにより起こる病気じゃから、輸血用の血液に白血球除去フィルターをかける事でもある程度予防できる。この方法ならばインドネシアでも一部の病院で可能じゃ。じゃが、血液専門医からの指示がいるから緊急時にこれをやってもらえるかどうかは、はなはだ疑問じゃな。除去フィルターの使用が一般的になるまで、この病気についてはあきらめてもらうしかない。
助手:あきらめるしかない・・・・ですか。とほほ。
博士:そういう途上国で生活している、という事実を改めて認識しなければならん。ここは、日本ではないんじゃ。その中で、いかにより安全に、快適にすごせるかという事を日本人会なり、とまとの会なり、マザーズクラブといった人たちがいろいろと努力されておるわけじゃな。日本から予備知識も無くやってきて、当たり前のように恩恵に浴していながら、何か問題が起こった時にこうしたボランティアでやっている組織に文句を言っておるけしからん輩もたまにみかけるが、その点を今一度、しかと心してもらいたい。こうしたボランティアの組織の人は皆、手弁当で忙しい仕事や家事の合間を縫って邦人のために努力されておるんじゃからな。
助手:そうですね。皆様の苦労のおかげで我々はこうして安心して生活ができるわけですよね。なるほど、同胞というのは有り難いですね。海外へ出るとしみじみとわかりますね。
博士:日本人は国内にいると、最近どうも家族をないがしろにしがちだからな。その点は、インドネシア人から大いに学ぶ必要がある。
助手:まあ、過度に家族を大事にしすぎて利権を利用したファミリービジネスに精を出すのもどうかと思う面もありますけどね。
博士:血は水よりも濃し。当地は昔ながらの家族主義の気持ちが強いから仕方の無い面もある。多民族国家ではあるがインドネシア全体を一つの家族として見ており、父権主義(パターナリズム)が強いからな。
助手:子供にとって良かれと思ってする父権主義、パターナリズムですね。でもパターナリズムは子供にとって窮屈な面もあるんですよね。
博士:子供が成熟するまでは、強権を持った強い父の下で指導される必要があるという事じゃろう。子供が成熟した後に彼らの自由に任せるという事かもしれん。
助手:私もまだまだ成熟していませんので、博士の指導に従いなさい、という訳ですね。
博士:君が未熟なのは確かじゃが、言い方に険があるな。
助手:そんな事はありません。遊びにおいても、常に博士を父と思って真似させていただいています。特にゴルフのパッティングの面などで。
博士:うっ? そろそろ落ちか? それはどういう意味じゃ?
助手:だって博士もおっしゃってるじゃないですか。未熟な私にとって大切なのは、パターのリズム(パターナリズム)であると。・・・お後がよろしいようで。

 

コメント

このブログの人気の投稿

令和6年能登半島地震 支援者向け関連情報

著書:想像を超えた難事の日々